メディネット 木村佳司代表取締役社長インタビュー

がん免疫細胞療法で次世代医療技術を切り拓く

メディネット
代表取締役社長
木村佳司(きむら・よしじ)

1952年、京都府生まれ。京都府立嵯峨野高等学校卒業後、HOYAに勤務し、多くの営業所や関連会社の再建などに携わる。95年メディネットを設立し代表取締役社長に就任。
 
 
 
 
 


 iPS細胞研究による京都大学・山中伸弥教授のノーベル賞受賞やアベノミクスの成長戦略によって俄然、注目を集めるバイオテクノロジー産業。これらを背景に株価も上昇し、有望セクターとして多くの投資家も熱い視線を注いでいるが、がんの免疫細胞療法の開発などでこの分野のパイオニアとして着実に歩んでいるのがメディネットだ。1995年にバイオの可能性を信じて創業し、現在も同社を率いる木村佳司社長に話を聞いた。

━━現在のバイオ業界の動きはスピード感がありますね。

 これまで長期間に渡って研究開発投資を続けてきて、時間的にも今その成果が表れ、次の段階に進んでいくタイミングを迎えているのです。加えていわゆる「アベノミクス」がうまくマッチし、後押ししてくれています。成長戦略の中核の一つに「医療」が据えられ、4月に再生医療推進法が成立し、さらに再生細胞医療を迅速に推進するための薬事法改正や再生医療新法が審議されています。これらの流れによって、公平な競争ができるマーケットとして環境も整いつつあり、わが国の再生細胞医療にとっても大きな第一歩を踏み出せます。
 これまでは通常、薬は基礎研究から始まり、第1相、第2相、第3相と十数年の時を経て、ようやく患者さんのもとに届けられてきました。ところが再生細胞医療の場合は、全く違う考え方で成立します。再生医療では少数例での治療結果をもとに、安全性が分かり有効性が見込まれれば、そこで早期承認しようという考え方です。この考え方だと、目の前の患者さんを救済するだけではなく、再生細胞医療産業の育成も両立することができるのです。要するに企業は多額の負担、患者さんは治療を受けられるまでに長い時間がかかっていたことから解放される可能性がでてきたということです。
 すると今までの医療業界のように、長い期間と多額の費用をかけて医薬品がつくられる、という構造は全く変わっていきます。これまでは、百人のうちの何人に効く薬が創れるか、という価値観でしたが、これからは「この患者さんにとって最適な薬を開発していく」という流れになる。遺伝子検査し、一人ひとりの患者さんに最適な治療を選択する個別化医療にシフトしてきているのです。今後は再生細胞医療分野に関わらず、個別化医療という考え方が主流になっていくことでしょう。

━━医療分野の改革は安倍政権の成長戦略の柱の一つにもなっていますし、国策でもこの方向に走り出しましたね。

 iPS細胞は世界の技術ですし、現在の知見にも役立ちます。何よりもこれまで治せなかった患者さんに、新たな治療価値を提供することができる。これは大きいです。待ち望んでいる患者さんにとっても一歩前進です。
 国も規制当局も、再生細胞医療を日本から発信していく次世代技術・産業として育成しようとしていますし、経済産業省などもアクセルを踏み込んでいます。うまくいけば、日本が再生細胞医療の開発拠点・発信拠点となり、世界と戦える新産業分野になるでしょう。
 欧米各国でも現在は、基本的には薬は早期承認という流れになりつつあります。しかし実際は、患者救済と産業化によって迅速に製品化するという、両方を実現する仕組みは出来ていません。それを日本が実現できれば、再生細胞医療の分野で、世界に先駆けて新たな承認基準を生み出すことができるはずです。現在日本はこの分野で世界のトップランナーの立場にいると言っても過言ではないのですから。

━━細胞医療を推進する再生医療新法が成立された場合は御社にとって大きいですね。

 われわれは14~15年前から他社に先駆けて、細胞を加工するということについての品質基準や管理体制など、いろいろなノウハウを培ってきました。臨床に携わってきた数は、私が知る限り世界最大級です。細胞加工を受託するということは、こういう蓄積とノウハウがなければ出来ません。どういう場合にどういう失敗が起こるかといったことは、今までの経験をすべて生かせるわけです。そういう経験を積んできた企業はグローバルに見てもありません。
 この再生医療新法に則って、いざ細胞加工をしようとした時、安全性を担保して正確に行うためには、我々と同じだけの経験値が必要です。そうでないと、どこに問題点があるかも分からない。その意味でもこの法律のおかげで、メディネットもさらに大きな一歩を踏みだせるチャンスが来た、これまでの投資が生かせる時期が来たとは言えるでしょう。
 再生細胞医療は日進月歩で進化する技術を迅速に取り込み、常に最新で最善な医療を患者さんに提供できなければなりません。最近は、科学の進歩のリズムと薬事開発の進歩が合わなくなってきました。ここをうまく合わせて、患者さんにとっては安価、企業にとっては低いコストでできる医療システムを実現することが望まれているのです。
 これを出来るだけ早く日本で実現することが、再生細胞医療に限らず、医薬品等においても期待されるところです。現在、新薬開発では欧米が大きな力を持っていますが、アジアでは日本の独壇場です。ですから今後、拡大するアジア市場で日本のプレゼンスを維持するためにも、再生細胞医療は積極的に推進していかなければならないのです。

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━━最後に御社と再生細胞医療の将来展望についてお話しください。

 再生細胞医療の分野は、今ようやく研究成果の刈り取り時期に入ったところなのです。当社の創業の頃は、再生細胞医療に注目する企業はありませんでした。ですから仕方なく自分たちですべてを投資し、切り拓いてきたのです。その投資したものが今、知財として蓄積されている。研究というものは、当たり外れはあるにしろ、たくさん投資したところに多くの知財が残っているものなのです。この内部留保をうまく生かしていきたいです。
 再生細胞医療では特許という分かりやすい部分と、ノウハウという時間がかかり分かりにくい部分がありますが、細胞加工ではノウハウの重要度が大きい。つまり我々の蓄積は、確実に競争力になっているのです。また、細胞に遺伝子を導入する「エレクトロポレーション技術」のアジアでの権利を我々が持っているということも大きな力になると思います。
 私はこの分野は経産省などが予想する市場規模より遥かに拡大するのではないかと考えています。そのためには、今後、再生細胞医療が社会にどのくらい受け入れられるかがポイントでしょう。この分野は世界中で研究され、目に見える結果も出てきていますが、日本が先頭に立って開発しやすい環境を整えれば、各国の企業が日本で開発しようという動きも出てくるはずです。ですからその意味でも、一連の医療制度改革の成否は、日本のこの分野での将来の成長性を左右すると思います。

《編集後記》
 バイオ企業の株価の上昇は急速だったが、目先の値動きにとらわれた面が多かったことは否定できない。しかし底流では、世界のトップランナーとしての地位を築くべく国策として動いてきたという事実があるということ。ここを忘れてはならないだろう。
 同社の次の10年に向けての行動規範は「Think Global, Act Local」。この意味について、木村社長は「これまできっちりやってきたことをグローバルにも生かしていこうということ」と説明する。「静かに地味に一歩一歩やってきた会社」という印象は、数年前に話を伺った時にも感じたが、今回はその背景にある自信や自負も言葉の裏に感じられた。
 「私たちはこれまで種まきをしてきたようなもの。今までやってきたからこそ分かることは多い。きっちりした土台にしかきっちりとした建物は建ちません」と木村社長。「基礎がきっちりできたタイミングで制度も整備されました。臨床開発のどれがいけそうでどれが行きやすいかを含めて、社内の知見を活かして順番に確実に承認をとっていきたい。今後、再生細胞医療は保険適用にもなってくるでしょう。我々が当初から目指している『少なくとも、日本どこでも受けたい患者さんに提供できる環境』に一歩近づいたのではないでしょうか」。ワクワクする取材だった。


(櫻井英明)


[ 会社概要 ]
社名:株式会社メディネット
市場:マザーズ
コード:2370
設立年月日:1995年10月17日
上場年月日:2003年10月8日
決算月:9月

☆連結業績見込み(2013年9月期)
売上高●24億円
営業利益●-6.2億円
経常利益●-6.2億円
当期純利益●-6.3億円

☆トピックス
 次世代医療として期待されるがんの免疫細胞療法の総合支援サービス、再生・細胞医療CPC(細胞加工施設)の運営管理を展開。がん患者の将来治療に役立てるため「自己がん組織バンク」サービスも推進、多方面の注目を集めている。