ドル/円相場は、米財政問題の進展待ち

リスクオフの流れ一服後に、改めてドル高・円安に
ドル/円相場は、2月25日の94.77円をピークに、足元では91.00~92.50円水準まで値位置を切り下げる展開になっている。

次期日銀総裁人事として、白川総裁の後任にアジア開発銀行(ADB)の黒田東彦総裁、副総裁に岩田規久男・学習院大教授の名前が挙がる中、週明けのドル/円相場は今回のドル高・円安局面における新高値を更新した。しかし、その後はイタリア総選挙を受けてのリスク投資環境悪化から逆に円買い(ドル売り)需要が膨らみ、1月31日以来の安値を更新する展開になっている。特に25日の取引では、テクニカル主導のストップロスを巻き込んだことで24時間の値幅が3.89円にも達するなど、大きな混乱が見受けられた。

25日の当レポートでは、「日銀総裁人事を受けての円売りは一時的」との見方を示したが、特に問題はなかった模様だ。既に日銀総裁人事の如何によって金融政策見通しが大きく修正されるようなステージは終わっており、今後は実際の行動(=マーケットにサプライズ感をもたらす緩和政策)が求められることになる。まだ正式な総裁人事は決まっていないが、民主党も自民党案を承認する構えを示していることで、特に日銀総裁人事の空白化といった事態は想定する必要がなさそうだ。

足元のドル/円市場で焦点となっているのは、日銀関連の動きよりもリスク投資環境の悪化の方だ。シカゴ・オプション取引所のボラティリティ指数(恐怖指数)が昨年末以降の高値を更新したことに象徴されるように、欧州債務リスクや米財政問題に対する警戒感が、リスク投資の流れにブレーキを掛けている。これが「安全資産」としての円買い需要を高めている。

イタリア政局に関しては、再選挙の可能性を模索する動きが見られるなど、当面は混乱状況が続く可能性が高い。ただ、イタリアはギリシャと違って外部からの支援受け入れの条件として緊縮財政を義務付けられている訳ではなく、大きな混乱状況には至らないだろう。実際、震源地であるイタリア国債市場を見ても、利回りこそ上昇しているが、特にパニックムードは見受けられない。ユーロ/ドルでは、1ユーロ=1.30ドルをボトムラインとみている。

警戒すべきは、3月1日からの歳出強制削減措置を控えた米財政問題の方だ。3月1日になったからと言って直ちに米政府機能が停止される訳ではないが、経済指標の発表停止といった最悪の事態にまで発展すると、一時的にドル売り・円買いの動きが加速する可能性がある。同日には米中製造業指標の発表も控えているが、改めてドル高・円安トレンドを形成するには、少なくとも米財政問題という「テール・リスク」が顕在化しないとの見通しが構築されることが必要だろう。

ドルサイドでは、26日にバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言が実施されたが、為替相場に対する影響は限定された。雇用市場見通しの著しい改善がない限り緩和政策を継続するとの見通しが、金相場の急伸を促している。ただ、これは金相場が過度に緩和政策の縮小・停止リスクを織り込んでいた反動に過ぎない。基本的には、米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文の内容を踏襲するものであり、材料視する必要はないだろう。米金利に低下圧力が強くなっていることで、日米金利差縮小の動きもドル/円相場にネガティブだが、これは安全資産としての米国債需要が高まっている影響であり、米財政問題が消化できれば、再び上昇圧力が強まるとみている。

目先のドル/円相場はやや上昇の勢いが鈍化し易いが、「緩和政策の出口に向かう米国」と「緩和政策の拡大に向かう日本」という基本構図が維持される限り、ドル/円相場の押し目買い基調には変化がないと見ている。既に「行き過ぎた円高」是正のステージは終わっているが、今後は日銀の緩和姿勢が実行に移されるのを確認しつつ、緩やかなペースでドル高・円安を一段と進める流れを想定している。

そして、この流れが変わるシナリオがあるとすれば、やはり米財政問題になる。マーケットの視線は欧州サイドに集中しているが、本当に警戒すべきは米国発のリスクオフの流れの方とみている。

なお、今週の金相場はV字型の反発になっているが、これは1,600ドルの節目割れから膨らんでいた短期売り玉がショートカバー(買い戻し)を迫られている影響であり、投機マネーの金市場への再流入の動きまでは確認できない。米金融政策に関する行き過ぎたタカ派見通しが修正された反動に過ぎないだろう。アジア現物筋の買いで1,550ドル水準が強力な支持線として機能しているが、1,550~1,600ドルをコアレンジに膠着気味の展開を想定したい。円建て金相場に関しては、緩やかな円安の支援を受けるとみており、ドル建て横ばい・円建てじり高の展開を想定している。