京浜急行電鉄 原田一之取締役社長インタビュー

羽田・品川地区のポテンシャル生かし
京急ブランドを高める


京浜急行電鉄
取締役社長
原田一之(はらだ・かずゆき)

1954年、神奈川県生まれ。東北大学卒業後、76年京浜急行電鉄入社。2007年取締役に就任後、常務、専務を歴任し、13年6月、取締役社長に就任した。
 
 
 


 真っ赤な車体にクリーム色のライン。品川駅を起点とし、川崎や横浜を経由して三浦半島へと向かう京浜急行電鉄は、東京や神奈川在住の人々にとってはお馴染みの存在だ。そして現在、同社は大きな転換期を迎えている。お膝元の品川や羽田空港、京浜臨海地区が、次代のわが国の成長戦略を担う重要な拠点と目され、その発展の一翼を担うことが求められるようになったからだ。今回は、今年の6月に就任し、新たな成長期へと突入しつつある同社グループのかじ取りを担うことになった原田一之社長に、その事業ビジョンを伺った。

━━改めて御社事業の概要についてご説明ください。

 当社グループの中核は東京、神奈川東部の東京湾の西側、いわゆる京浜工業地帯を南北に貫いている鉄道路線です。1998年に羽田空港に乗り入れをして、航空路線を通じて全国へ、そして最近は世界へとつながっています。鉄道事業はもともと地域に密着した事業ですが、当社は羽田と直結していることで、関東だけでなく世界の人々とつながっているのです。
 事業エリアとしては、都内で5本の指に入る乗降客数をほこる品川、日本の玄関口である羽田空港、工業都市から産業・文化都市へと変貌している川崎、みなとみらいなど商業・ビジネスの中心である横浜、高級住宅地として定評のある横浜南部、自然の豊かな三浦半島など、わずか総延長87キロの路線にビジネス、国際空港、産業、観光などさまざまな要素がコンパクトにまとまっています。
 ただ総延長は短いとはいえ、鉄道の利用者は年間4億人以上となっています。また、当社の前身である大師電気鉄道を含めれば、今年で創立115年を迎えた歴史のある企業でもあります。京急グループの事業を簡単にご説明すると、まず鉄道やバスを運行している交通事業があり、この事業では現在、羽田中心に新規路線を開拓しています。そして不動産事業として、沿線中心にマンションや分譲地の販売をしており、品川や横浜などを中心にオフィスビル約30棟を賃貸しています。さらにレジャー事業では,お台場の「ホテル グランパシフィック ル ダイバ」や「葉山マリーナ」などを運営。流通事業では沿線で百貨店やストアを運営しています。
 
━━次に京急グループの将来像についてお話しください。
 
 長期ビジョンを、「品川・羽田を玄関口として、国内外の多くの人が集う、豊かな沿線へ」と定めています。このビジョンには、品川駅周辺の開発事業の推進、品川・羽田空港地区が持つ高いポテンシャルの活用、安全・安心なサービスの提供、豊かで住みやすい沿線づくり、そして新規事業の展開という5つの柱があります。
 なにより沿線地域の成長に貢献することは今後も重要な使命となります。それに加えて、品川・羽田といった日本でも有数の恵まれたエリアの事業拠点を最大限に生かし、成長を続け企業価値の最大化を図っていきたいと思います。
 
━━京急沿線のポテンシャルについて、具体的にご説明ください。
 
 先駆的な取り組みを行うために、実現可能性の高い区域に国と地域の政策資源を集中し、産業・機能の集積拠点としてわが国の経済成長のエンジンとなることを期待して策定された「国際戦略総合特区」。これには全国で7地域が指定されましたが、このうち当社沿線には2地域が指定されています。アジアヘッドクォーターとしての品川、羽田地区と、横浜、川崎臨海部を中心とした京浜臨海部ライフイノベーション地区の2地域です。これらの地域は、アベノミクスの成長戦略の柱でもある「国家戦略特区」への格上げも期待されています。
 特に品川駅周辺の再開発については、15ヘクタールに及ぶJR車両基地の再開発が検討されていますし、山手線新駅構想などもあります。しかも現在は東海道新幹線の全列車が品川に停車しますし、リニア中央新幹線の品川~名古屋間も2027年に開業予定です。
 来年には首都圏北部主要都市を結ぶJR3路線が東京駅まで乗り入れ、品川までの直通運転が可能になりますし、今後、首都圏交通の要衝としての更なる発展が期待されます。当社はその品川地区に約6万平方メートルの土地を保有しているので、この資産の最大活用を図っていきます。
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 また羽田は国内線の発着回数が今年中には34万回に増加。国際線も6万回と倍増する予定です。国際線ターミナルビルの拡張工事も進んでいて、完成後には駐機スポットが10か所から18か所に、出国検査場も2か所に増加します。17年には年間利用者が8030万人にまで増加する見通しです。
 これらを背景に羽田空港への鉄道アクセスの強化を図り、かつバス路線の拡充にも努めています。また羽田利用者の増加にともなうホテル需要の拡大にも対応し、ビジネスホテル「京急EXイン」の出店を進めています。これからも「羽田といえば京急」と言っていただけるように努力していきたいと思っています。
 さらに政府は「観光立国の推進」で訪日外国人を30年には3000万人に増加させようという目標を掲げています。特に羽田空港から定期便が就航している韓国、中国、台湾、香港は最重点のエリアとされていますから、当社グループも効果的に訪日客を取り込みたいと考えています。昨年から韓国の大手旅行代理店「ハナツアー」の窓口で当社の乗車券を発売しているのもその一つです。
 また、お台場カジノ構想なども実現化した場合も、この地区に旗艦ホテルを有する当社グループにとっては大きな効果があるに違いありません。

━━現在の業績面についてはいかがお考えでしょうか。

 おかげさまで今期は増収増益の見通しです。まだ第一四半期の段階ですが、昨年実施したダイヤ改正の効果により羽田空港輸送等が増加したほか、交通系ICカードの全国相互利用キャンペーンなどで当社線の利用促進に努めた結果、輸送人員は前年同期比で1.4%の増加となりました。
 セグメント別でも交通事業、不動産事業、レジャー・サービス事業、流通事業など主要分野で増収増益となりました。また、当社の配当に関してですが、安定的な配当を継続しております。当社は1949年に東証1部に上場以来、無配になったことはありません。また30年以上、普通配当を減配したこともありません。

━━最後に、原田社長が考える“京急ブランド”とはどのようなものでしょう?

 すべての事業の原点は“安全・安心なサービス・商品の継続的な提供”であり、事業の大前提となっています。今後も、鉄道事業を中核とした事業で「安全な京急、信頼できる京急」という、これまで培われた当社への期待に応えられるように取り組んでいきます。安全を維持し続けることで培ってきた利用者の皆様からの信頼が当社グループの最大の財産だからです。
 その上で当社グループの原動力が“人の力”であることは言うまでもありません。今回経営計画の中で「京急ism」という概念を定めました。これを一言で言えば、京急グループ社員としての誇りを持ち、皆で結束し、果敢に挑戦していこうということです。また京急ブランドを全国ブランドとして確立し、将来的には世界ブランドにまで高めていくことが今後の大きな目標です。
 企業が継続的に発展していくためには時代への変化に即した新しい事業へのチャレンジが不可欠です。品川や羽田を生かした事業としては、外国人ビジネスマン向けの長期滞在施設や外国語対応の保育園の整備なども必要になってくるでしょう。また沿線の住民の方々のために学童保育への参入などの新しい生活支援サービスの展開も視野に入れています。さらに三浦半島の自然を生かした農業や太陽光発電などの新しいビジネスへの進出も、将来に向けての成長課題になってくると考えています。

《編集後記》
 京急が運んでいるものは通勤電車としての “生活”。そして羽田空港へと向かい、羽田空港から戻ってくる旅人たちの“期待”と“思い出”。そういう意味で、私は京急を「トキメキ電車」と勝手に名付けた。今年6月に社長に就任された原田社長は、鉄道本部や人事、グループ戦略などを歴任されての登場。羽田の持つポテンシャル拡大や品川の再開発といった未来面に加え、沿線の特性を生かした地域の活性化、安全運行の継続などを打ち出されている。
 例えば新千歳空港から札幌に向かってJR線に乗ると、目に付くのは同社の「どんどん来る来る!」の広告。まさに羽田空港に乗り入れる京急が、全国区の路線であり世界の玄関口へと変貌を遂げる前夜であると言うことができよう。
 115年の歴史と伝統の中で、常に先駆的役割を果たしてきた同社の今後の展開に対する期待感は大きい。京急が進化すれば日本が変わるという気概が秘められているように感じる。


(櫻井英明)

[ 会社概要 ]
社名:京浜急行電鉄株式会社
市場:東証1部
コード:9006
設立年月日:1948年6月1日
上場年月日:1949年5月16日
決算月:3月
 
☆連結業績見込み(2014年3月期)
売上高●3160億円
営業利益●207億円
経常利益●154億円
当期純利益●90億円
 
☆トピックス
 京浜地区や三浦半島を地盤に事業展開する大手私鉄の1社。国際化が進む羽田空港やリニア中央新幹線の始発駅が予定される品川など、今後の発展が見込めるエリアを有するのが強み。2012年10月には京急蒲田駅付近の高架化も完了し、羽田空港へのアクセスも格段に向上した。