【サクソバンク】選挙に圧勝したが、本当の戦いはこれからだ ~成長戦略・構造改革で問われる安倍首相のリーダーシップ~

はじめに
7月21日の参議院選挙は、自民・公明の与党が改選議席121のうち76議席を獲得して、安倍首相の圧勝となりました。しかし、選挙の勝利は「楽な部分」であり、安倍首相はこれから「現実」と向き合わねばなりません。その現実には、日経平均株価の下落・円高・消費税引き上げが含まれます。いずれも安部政権への支持率低下を招く要因となる可能性を秘めています。それは、有権者は希望を求めてもそのための代価を払おうとはしないからです。
 二院制を採用している日本では、参議院は「弱い第二院」ですが、政府提出法案を阻止する権限が与えられています。今回の選挙で与党が6年ぶりに両院で多数を占め、「ねじれ」国会の状態が解消されました。
選挙結果について、安倍首相は選挙翌日の記者会見で「次元の違う経済政策」が「国民から信を得られた」と述べましたが、自民党の圧勝が事前に予想されていたこともあり、投票率はわずか51%にとどまりました。
安倍首相が進める政策に「改革」という言葉を使うのは「言い過ぎ」かもしれません。それは、安倍政権の政策が実際には代わり映えしないからです。
•自分以外の金を使う(財政拡大)。
•自らの担保は出さずに銀行券を刷る(金融緩和)。
•改革と成長を実現するのだと装う。
 市場関係者は、「アベノミクス」のような政策が機能しないことを示す歴史的な証拠がいっぱいあることを忘れがちです。その証拠には、例えば日本が30年近くも前から打ち出してきた政策の数々が含まれます。世界の多くの国で経済の80%を構成する中小企業を対象とする改革・再生・新規投資に取り組むことが、成長を創造する唯一の道であることを歴史が再び証明することは誰もが認識しています。にもかかわらず、人工マネーと説明責任を果たさない政策当局者が幅を利かせる今日の世界では、「いかなる成長」も成功とみなされます。日経平均株価は2012年12月の安倍政権発足以来40%も高騰しましたが、東京株式市場の上場企業が日本経済に占める割合は20%にも満たず、それらの企業の株主は日本の人口の5%以下に過ぎません。選挙には勝利しましたが、現実は安倍首相が掲げる政策目標とかけ離れています。
経済の実態は一般的な評価と大違い
日本経済の実態は、冷厳な事実に照らし合わせると、一般的な評価と非常に異なっています。
 国際通貨基金(IMF)が5月下旬に行った「2013 年対日4条協議」の後に発表した声明からは、IMFが安倍政権の経済政策を全面的に評価していないことが読み取れます。
 IMFの対日代表団は、安倍政権の政策目標を評価しつつも、政策の成功が参院選後の「野心的な財政改革・成長戦略の実施に大きく依存している」と警告しています。 マクロ経済指標が日本経済の実態をよく表しています。

日本の経済見通し(2010-14年) 対前年比(%)
2010年GDP成長率 4.7%
2011年GDP成長率 -0.6% 
2012年GDP成長率 2.0% 
2013年GDP成長率 1.6% (予測)
2014年GDP成長率 1.4% (予測)

日本の実質成長率は2010年には「最後の財政拡大」策が打ち出されて、「アベノミクス」なしで4.7%を記録しました。今回は世界のどの国も経験したことがないほど大きな「賭け」に出たはずなのに、実質GDP成長率の予測は大きく下がって、IMFの見通しでは2013年が1.6%、2014年が1.4%に過ぎません。こうした見方をするのは私だけなのか、あるいは解釈の違いのせいでしょうか。ちなみに、2013年と2014年の成長率(予測)を合わせても、2010年と2011年(マイナス成長)の成長率を足した数字を下回る見通しです。
 こうした低い成長率が強力な改革政策が進められる中で起きるのであれば、それは理にかなった結果と言えます。しかし、政府債務は対GDP比で2010年の216%から2013年には245%に膨らむ見通しです。これでも「成功」と言えるのでしょうか。どう判断するかは定義次第です。
 安倍首相は国民から与えられたマンデート(権限)を以下のような実践的な政策と、一部は非常に問題をはらんだ政策を遂行するために使うことになります。
•原子力発電所の再稼働(日本国民の多数が反対しています)。
•環太平洋経済連携協定(TPP)への参加。
•法人税率(36%)の引き下げ。
•消費税率5%を2014年4月から2015年10月にかけて10%へ引き上げ。
 消費税引き上げはIMF勧告に沿うものですが、IMFも指摘するように、消費税増税だけでは財政再建に必要な財源の半分程度にしかなりません。私が以前から提言してきたように、日本は消費税率を20%まで引き上げるべきです。そうすれば、財政再建の残りの財源を賄うことが可能になります

安倍首相の真の狙いは、強い日本の復活
日本国憲法は戦勝国・アメリカの手で書かれました。第二次世界大戦後にマッカーサー元帥によって日本国憲法が作られたという事実を知る人はほとんどいません。私から見ると、今回の参院選の争点は、安倍首相にとっては成長や構造改革ではなく、憲法改正だったのではないかと思われます。憲法96条の改正を主張してきましたが、本当に変えたいのは9条だと言われています。込み入った話のように聞こえますが、実際はそうではありません。96条は憲法改正の発議には衆参両院で3分の2以上の賛成が必要と定められており、9条は戦争放棄を定めています。安倍首相の狙いは96条を改正して、「3分の2」の発議条件を「過半数」に変更することです。参院選の結果、自民党単独では3分の2の議席を確保できませんでしたが、安倍首相は国民からのマンデートを得ました。首相の狙いは国家威信の回復とアメリカの影響力からの脱却です。その意味で、私には、首相が言い出した「3本の矢」が機能するとは実際には自分でも思っていないように見えます。安倍首相が以前に一度首相を務めた事実を忘れてはなりません。
安倍首相は、もっと活力のある国にするために日本を変えようと全力を挙げています。また、孤立感を深めつつある日本には地政学的戦略が必要だと認識しています。この戦略には、日本が国防軍を持ち、ナショナル・アイデンティティを持てる国になることが含まれます。
まとめ&市場見通し(2013年第3四半期)
安倍首相は選挙に勝ちましたが、さらなる成長と構造改革の推進という闘いでは敗北するでしょう。しかし、その過程において、首相は非常に計算高い方法で自らの真の政治目的の達成を進めようとしています。その犠牲になるのは、真の構造改革と日本の成長、そして日本国民です。
 市場は、今後数カ月、安倍首相が「真の政治目的」に向かうかどうかを 注視していきます。世界で最も保守的な社会の1つである日本を変えることは、古い酒を新しい瓶に移し替えただけのアベノミクスのようなギミック(からくり)ではできません。それには、日本の再生を妨げている障壁と正面から向き合うことが不可欠です。今、日本は経済の実態を率直に認め、市場開放の推進・競争の導入、国内産業の保護の打ちきり、外国人の移住を厳しく制限する法律の改正などに取り組む必要があります。いずれの問題も放置すれば、日本が最終的には内向的で旧弊な島国と化してしまう恐れさえあります。
 世界は日本を必要としており、日本も世界を必要としています。私は、日本国民が安倍首相を選んだのは、より強く、より競争力のある日本となるための最初の一歩(あるいは二歩目)だと固く信じています。日本とその経済の将来についても引き続き楽観視をしています。欧米がいずれは直面することになるデフレ・低成長の問題を日本が上手に克服する日が来ます。
 参院選は終わりました。選挙中に希望をばらまくことは易しいのですが、構造改革を実行に移し、前に進むという最大の課題は残されたままです。私は成長と構造改革の推進という闘いでは安倍首相は敗北すると述べましたが、その予測がはずれることを願っています。しかし、真の変革には失敗がつきものだということは、歴史が証明しています。そのことを私たちは今こそ認識すべきです。

日経平均株価: 今回の上げ相場は天井を打ち、1万3400円~1万3600円まで下落する(下落率は8~10%)
ドル・円相場: 1ドル=95~96円台まで戻り、次のレンジを狙う動きになる