増税なくば金利急騰?

安倍首相包囲網?
政府・与党から安倍首相に対し、予定通りの消費税引き上げ実施を決断するようにとの発言が相次いでいる。消費税は2014年4月に現行の5%から8%に引き上げられ、2015年9月には10%にまで引き上げられることが、前の野田民主党政権が自民党・公明党との3党合意によって成立させた「社会保障・税一体改革関連法」で決まっている。

もっとも、同法律には「経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」という「景気条項」が付随している。附則条項には「施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認」することが明記されている。

安倍首相は「経済状況を見極め判断する必要がある」と繰り返し表明、10月頃まで最終判断しない姿勢を崩していない。判断先送りは参議院選挙での争点化を恐れてのことと見られていたが、参議院選挙で大勝した後も明言を避けている。

一方、財務省は何としても悲願の増税を予定通り実施したい考えだと言われている。麻生副総理兼財務相なども予定通りの引き上げを支持している。

財務省出身の黒田日銀総裁は、先週、財政への信認の重要性を強調。政府が現行法に従い来年4月以降2段階で消費税率を引き上げても「経済成長が大きく損なわれることはない」との見解を強調した。

甘利経済再生相は、リーマンショックのようなよほどの外的要因がない限り、消費税を引き上げないとの選択肢はないと述べた。

野田自民党税調会長は、増税決断は「やはり9月中でないと」とし、消費増税先送りなら「金利急騰」すると述べた。

消費税引き上げは決まっている。しかし、景気失速の恐れが出てきたら「停止を含め所要の措置を講ずる」という安全弁がついている。リスク管理面からは、事務手続き上の混乱が生じないぎりぎりまで経済指標の確認を怠らないのが、経済運営の最終責任者としての当然の姿勢だ。「先送り」などと、まるで「決められない政治」かのような表現で、安倍首相を急かす政府・与党の関係者は、国家の経済運営に優先する何らかの事情でも持っているのだろうか?

消費増税先送りなら「金利急騰」?
財務省出身で、金融には詳しいはずの野田自民党税調会長だけでなく、金融市場の経験が長い人の中にも、消費増税先送りなら「金利急騰」、「国債バブル崩壊」だと警告する人がいる。「増税なくば金利急騰」とは一体どういうことなのだろうか?

金利は循環するものだ。超低金利が永遠に続くわけではない。景気拡大を望み、ある程度のインフレを容認すれば、金利は上昇する。国債の低利回りに魅力を感じない環境になれば、国債は売られるのだ。「増税なくば金利急騰」と警告する人に聞きたいが、増税すれば金利は上がらないと断言してくれるのか?

「社会保障・税一体改革関連法」は、少なくとも建前は、将来にわたって持続可能な社会保障制度を確立するための、税制改革であるはずだ。ユーロ周辺国に見られたように、増税により更に景気が失速し、社会保障費が増大する一方で、かえって税収が減るようなことは望んでいないと信じたい。それらの国々では、高失業率のために出生率が急低下し、将来の年金破たんも取り沙汰されている。

ここで、金利急騰を意味する、国債価格の急落がどういった条件で起きるのかを復習しておきたい。

債券の価格変動要因には、大別して3つあると言われている。

1、予想インフレ率
2、景気見通し
3、政策金利

1、予想インフレ率:
通常、インフレ率は年率で表すので、2%の予想インフレ率は、現在100円で買えるものが、1年後には102円になっていることを予想している。この時、2%の利回りの1年物国債を100円で買って保有すれば、102円になる。つまり、予想インフレ率2%の時に、利回り2%以下の債券を買うと、実質的に損をする可能性が高い。

このことから、予想インフレ率が上がれば、債券が売られて利回りが上昇する傾向が見られる。

2、景気見通し:
景気見通しが上向けば、業績向上が見込まれるので資金需要が増大する。コスト60円のものが、100円で売れる見通しが立てば、コスト+利息を払ってでも、60円を借りたいという需要が起きる。この時、国債利回りに上乗せする金利を払ってくれるなら、貸出は国債運用以上のリターンが期待できるようになる。この時の上乗せ金利は破たんリスクや事務コストなどを反映するが、業績向上は破たんリスクを押し下げる。

また、業績向上はしばしば株価の上昇にもつながるので、株式運用は国債運用以上のリターンが期待できるようになる。

このことから、景気見通しが上向けば、債券が売られて利回りが上昇する傾向が見られる。

3、政策金利:
政策金利は金融機関の調達コストにつながっている。2%の利回りの1年物国債を100円で買って保有すれば、102円になるが、この時100円を1%で調達できれば1%の利息が残る。政策金利がほぼゼロだと、銀行の資金調達コストはほぼゼロなので、1%未満の利回りの国債で運用してもリターンが得られることになる。

このことから、政策金利が上向けば、債券が売られて利回りが上昇する傾向が見られる。

現状の経済政策の目的は、インフレ目標2%と雇用拡大だ。雇用拡大は相応に景気見通しが上向き、業績見通しが向上した結果として得られるものだ。つまり、現状の経済政策が継続する限り、1と2との要因により、債券は売られる可能性が高い。その時、売り手に対して買い手の数が大幅に少ないと、債券価格は急落し利回りが急騰することになる。

そこで、3が意味を持ってくる。

現状の経済政策導入以来、銀行は国債を大量に売っている。1、2の要因により、0.80%の10年国債の利回りに魅力を感じないからだ。とはいえ、まだ銀行の調達金利はほぼゼロだ。0.80%では持っていたくなくても、1.30%、1.80%ではどうだろうか? つまり、超低金利政策の維持は、1、2により確実に出てくる売り手に対して、買い手を増やす効果を持っている。

加えて、量的緩和で、日銀自身が中長期国債の買い手となっている。

このことが意味しているのは、金利の上昇は避けられないとしても、急騰は避けたいという当局の強い意志だ。

税率と債券価格
ここのどこに消費増税が関係してくるのか?

実は債券の価格変動要因には、他に少なくとも2つの大きな要因がある。

4、信用リスク
5、税率

5、税率から述べる。
この場合の税率とは、利息やキャピタルゲイン、取引にかかる税率だ。これらの税率が上がると、債券のリターンを浸食するので、債券の大きな売り要因となる。

では、消費税ではどうだろう。現行の5%が、2015年9月には10%に引き上げられる。105円で買えたものが、110円に値上がりする。つまり、インフレ率と同じ効果を持っている。予想インフレ率との違いは、予想はあくまで予想だが、増税は確実な値上がりを意味する。相応のデフレにでもならない限り、モノの値段は確実に上がる。つまり、低利回りの債券の魅力が減少し、売られて利回りが上昇する。消費増税すれば金利は上がらないどころか、金利上昇要因なのだ。

4、信用リスク:
債券とは、資金の貸付だ。国債は国の借金、貸し手は購入者、運用者だ。債務不履行は困るので、信用リスクが問題となる。

消費増税先送りなら「金利急騰」、「国債バブル崩壊」だと警告する人は、この点を問題としている。つまり、財政健全化のための増税がなされなければ、信用リスクが高まり、国債が売られて金利が急騰すると警告している。

しかし、ユーロ周辺国が実例を示してくれているように、増税しても財政健全化がなされなければ、逆に信用は失墜する。打つ手がないことが明らかになるからだ。つまり、日本もギリシャのようになってしまう。日本は違う、国債の買い手が日本人だからだというのなら、消費増税と信用リスクとを結びつけるのには無理がある。つまり、「増税なくば金利急騰」とは論理的な根拠に乏しい、何が何でも増税という意志の表明に過ぎない。

消費税引き上げは決まっている。しかし、景気失速の恐れが出てきたら「停止を含め所要の措置を講ずる」という安全弁がついている。景気失速時に増税すれば、虻蜂取らずで、税率は上がっても税収が減少する可能性が高まる。ユーロ周辺国のように、失業率がたった数年で史上空前のレベルにまで急騰することも考えられるのだ。

リスク管理面からは、事務手続き上の混乱が生じないぎりぎりまで「経済状況を見極め判断する必要がある」とする安倍首相の姿勢は、経済運営の最終責任者として当然なのだ。

また、低金利政策の維持、量的緩和は、米連銀も行っているが、上記で説明したように、債券市場の急変を避けるには理に叶ったものかと思う。