【サクソバンク】2013 年第 3 四半期マーケット・インサイト ~トップストーリー

ゴドーを待ちながら
株式市場は第 2 四半期から第 3 四半期初めにかけて値上りを続け、「値上りしたものは値下がりする」という恐怖感や健全投資の必要性などをすっかり忘れてしまったかのようです。第 3 四半期を通してこの傾向は持続するのでしょうか。それとも、現実と正常化への回帰を、ノーベル文学賞作家サミュエル・ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」の 2 人の主人公、ヴラジミールとエストラゴンのように待ち続けることになるのでしょうか。

「現在の状況は、世界経済の正常化には改革が必要だという警鐘が鳴っているにもかかわらず、来るあてのないゴドー(神)を待っているようなものです。健全な市場を取り戻すために必要なのは、金融緩和・ゼロ金利・実質マイナス金利ではなく、イノベーションであり、真のリスクテイキングやロステイキングなのです。後者については、残念ながら、グリーンスパン(1987 年~2006 年米連邦準備理事会議長)時代以前から見られなくなってしまいました。
株価は新高値へ
第 3 四半期を予測したとき、発生の可能性が高いシナリオは株価が新高値を付けるということです。ニューヨーク株式市場では、企業業績が好調に推移することと、米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和の継続(経済の現状から見れば量的緩和を終わらせるべきなのに躊躇しています)を背景に、S&P500 種株価指数が 1750 ドルあるいは 1800 ドルに乗せることが予想されます。皮肉にも米国とヨーロッパ主要国の経済成長のテンポが鈍く、本格的な景気拡大に至っていない状態が続いていることから前述の警鐘が無視され続け、値上りが続く株式市場にとってはまさに理想的な状況になると言えます。

しかし、どうか勘違いをしないでください。私が「バミューダ・トライアングル」と名付けている経済の 3 つの現象(低成長、株価高騰、高失業率)は持続可能な状況にはありません。それは幻想なのです。しかも、その幻想を本物だと信じ続ければ続けるほど、それが破綻したときの苦痛がよりいっそう大きいものになることは明らかです。

つまり、第 3 四半期は経済のファンダメンタルズと関係のない展開となることが予想されます。市場動向は、政治指導者が 2008 年のリーマンショック以来続けてきた時間稼ぎ、つまり問題解決をさらに先延ばしできるかどうかにかかっています。
中央銀行の苦悩
市場にとって 2008 年以来の忠実な「戦友」は中央銀行です。2013 年に入ってその関係に初めて不協和音が表面化しました。その主たる原因は、FRB がやや発作的に「量的緩和は永遠に続くものではなく、正常化はいずれ必要となる」と言い出したからです。中央銀行の中央銀行と呼ばれる国際決済銀行(BIS)は、最近、通常の外交的な言い回しではなくストレートに「量的緩和政策には限界がある」と警告を発しました。量的緩和の継続は構造改革の能力とそれを実行するためのインセンティブを損なうというわけです。

言い換えると、中央銀行が自らの政策に大きな疑問を感じる事態に陥る可能性が指摘されていることになります。そのことは、実勢価格を無視して強引に資産価格を押し上げ、その結果、リスク水準を世界金融危機以来の高さにまで引き上げた張本人である投資家への厳しい警告を意味しています。

終わりの来ない祭りはないという思いと、現在のような景気低迷期に中央銀行が政策の変更に踏み切ることはないだろうという思いが交錯しているのが現状です。しかし、問題は残っています。それは、「緊急対応」を永遠に続けるわけにはいかないと FRB が量的緩和の縮小を喧伝し続けているからです。景気の現状を考えると、流動性の引き締めのタイミングを決断するのは難しいと言わざるを得ません。
先送りは限界へ
2013 年上半期の米国の成長率は代わり映えのしない 1.7%となる見通しです。米国の景気についてサクソバンク独自の先行指標は良くも悪くもない数値となっており、2013 年を通した成長率は同じく 1.7%を予測しています。これは 2012 年の 2.2%を下回っていますが、税コード変更と歳出削減、消費の伸び悩み(というより可処分所得の減少)という国内要因と、苦境に立たされている世界経済の現状を反映しています。

第 3 四半期には、最も慎重な投資家までもが株式市場にはまり、株価は不安材料があるときは上昇するという市場の格言通りの動きを見せることが予想されます。その背景には、金融緩和策を続ける中央銀行と真の構造改革を先送りしたがる政治指導者たちがいます。政治家が、「構造改革は短期的には痛みを伴うが避けては通れません」と次の選挙での落選を覚悟してまで真剣に訴えるとは思えません。

待ったなしの構造改革とそれを回避するための時間稼ぎのせめぎあいは現在、最終段階を迎えています。現在はブローオフ(アメリカのスラングで「無視する」)局面にあると言えます。つまり、実態経済が活性されない状態の中でファンダメンタルズに沿って動いてきた市場参加者はもはや残りの資産を投げ出すしか術がないのに対して、中央銀行と政治指導者たちは自分たちの「怠惰」がむしろ功を奏しているのだと確信し始めています。
大転換期の予感
サクソバンクは、第 3 四半期が大転換期になる可能性があると考えています。過剰な金融緩和の終わりが始まり、量的緩和の緩やかな縮小(第 2 四半期にはその「偽スタート」現象が見られました)に向けた転換点を迎えるとともに、構造改革なしでも真の経済成長が復活するという思い込みにも終止符が打たれる四半期となると見ています。皮肉なことに、量的緩和を縮小しても、2014 年の金利は史上最低に下がる見通しで、最終的なツケを払う局面が待っています。

別な言い方をすれば、債券市場はまだバブル状態には至っていないということです。2014年の債券利回りは最低水準を更新する展開になると予想しています。経済の 80%を構成する中小企業がイノベーションと新規雇用の創出で苦闘を重ねている状況下では、景気回復は見込めません。問題は、経済の残り 20%を構成する上場企業や準国有状態にある銀行が、イノベーションと雇用創出の領域で経済に貢献をしていないことです。上場企業や銀行は必要であれば競争相手や新興企業を買収するため、イノベーションや雇用創出の必要性を感じていません。テクノロジー分野を見ればそのことがよくわかります。グーグル、ヤフー、マクロソフトなどは次世代の新機軸を狙って巨額のプレミアムを払い続けています。
切迫する欧州
今後の主要な政治日程で最も重要なものは、9 月 22 日にドイツで行われる総選挙です。その選挙結果については、メルケル首相の去就がどうなるか(与党の敗北は予想していません)よりも、ドイツ政府・議会の欧州連合(EU)に対する政策に大きな関心が寄せられています。ヨーロッパの「オーバーバンキング」の状態は全く解消されていません。過小資本の銀行の問題は、ヨーロッパの金融市場の正常化のためにも、最終的には EU 全体で解決をする必要があります。欧州中央銀行(ECB)のライフサポートを受けて非効率的な銀行が存続することは中小企業の発展のために何の役にも立ちません。言い換えれば、金融緩和策が本当に恩恵をもたらさなければいけない対象は経済の 80%を占める中小企業なのです。

第 4 四半期にかけて、EU 経済は大きく減速することが予想されます。それは誰にもコントロールすることができない問題が山積しているためです。そうした例は、国際通貨基金(IMF)、欧州委員会、欧州中央銀行からなるユーロ圏救済の「トロイカ」体制に抵抗するギリシャ、政治不安とファンダメンタルズの悪化が続くポルトガル、財政危機による不況下にあるアイルランド、苦い薬を飲むべき状況にありながらリップサービスで問題の先延ばしを続けるイタリアとフランス、と枚挙に暇もありません。そこに、スペインでは首相に不正資金疑惑が浮上して、現政権を揺るがす事態に発展しています。そして、ヨーロッパは問題の先送りが許されない状況をすぐにでも迎えることとなります。