円高・株高の同時進行は日本株大復活のサイン

チャートが示唆する強気サイン


日経平均の週足に大きな強気サインが現れた。先週(7 月第三週)と3 週前(7 月第一週)の二本の長い陽線によって、2 週前(7 月第二週)の短い陰線が抱えられるパターンが発現した。また、ゴールデンクロス、つまり13 週移動平均線が26 週線を下から突き抜けることが数週間以内に起こることがほぼ確かとなった。


しかし、この株高には二つの意外性がある。第一は、円高株高の同時進行である。筆者を含め多くの強気派は株高の根拠として、円高の終焉=企業収益改善=デフレ圧力低下、といったパターンを想定していた。円高下で日本株高が進行しているのは、驚きではないか。第二に、先週末の欧州緊急サミットによりギリシャ危機の当座の解決が打ち出される場面で、世界的にリスクテイクの流れが復活しているにも関わらず、円高が進行していることである。これまで円高は、グローバルリスク回避の象徴であった。この二つのいぶかしさ故に、投資家は市場の強気サインにも懐疑的である。


円高がなぜ日本株を利するのか


なぜ、円高と日本株高が両立しているのか。底流で円高下でもデフレ圧力が緩和し始めていることを認識するべきなのかもしれない。第一に、円高下でも日本の輸出単価(円ベースでの)は低下しなくなっている。図表1 に見るように2007 年以降、円の独歩高が進んだ。しかし図表2、3 に見るように、日本の輸出単価は2009 年以降、輸出先通貨ベースでは大きく上昇し、円ベースでも若干上昇している。2000 年代以降日本の輸出企業は韓国・中国・台湾に対して価格競争で完敗した。今残存している輸出品の中心は非価格競争製品(=技術独占品)のみ、つまり、韓国・台湾・中国で生産できない高技術品(ハイテク素材・部品・装置など)である。ゆえに円高になっても輸出数量が減らないばかりか、むしろ円高によりドル建て輸出価格の値上げ行われるので、日本の貿易黒字増加要因となっているのである。もちろん自動車や造船、家電など韓国メーカーと競争している業種でのマイナスはあるが、そうした産業は今や少数派である。


主要通貨の対円レート推移(2007 年1 月=100)/日本の円ベース輸出単価(2007 年1 月=100)
日本の現地通貨ベース輸出単価(2007 年1 月=100)/夏のボーナス増減率(前年比)


第二に、輸出企業の円高抵抗力が増し、円高になっても賃金引下げ圧力が起きなくなった。輸出企業が日本国内で雇っているのは、海外と競合する非熟練低賃金労働ではなく、技術者やマーケティング、経営者と言ったテクノクラートである。故に、この円高かつ震災直後の難局にあっても、今夏のボーナスは前年比4.2%と増加に転じている(7.19 日経新聞)。(図表4 参照)第三に、円高は日本の輸入コストを大きく引き下げる。原油価格上昇負担は大きく減殺され、輸入業者のコストは低下する。国内流通革命を担っているアパレル、コンビニストア、雑貨ストア、100 円ショップ、などはその恩恵を受ける。そうした産業はインターネット革命などの技術成果を受け入れ、一段と大きくコストを引き下げている。それは家計の実質購買力を高める。つまり、円高下でもデフレ圧力が軽減しているといえるのではないか。


円安転換で更なるスケールの株高に


勿論、今の円高に経済合理性や持続性は無いと考えられる。図表5 に見るように、金利差要因は今年の円高を正当化していない。しかし、需給面では2007 年まで積みあがったドル買いポジションの調整がまた終っていないのかもしれない(図表6 参照)。外為証拠金取引の普及によって日本の個人や中小企業の間で、2005~2007 年に積みあがったドル買いポジションは著しいものであった。最近の円高と証拠金倍率上限の引き下げ(8 月から50 倍から25 倍へ)によって、ロスカットの円買い圧力が高まる可能性がある。


OECD の計算によれば1 ドル111 円(2010 年)が、購買力平価からみた妥当水準である。また米国景気拡大がより確かとなり、米国短期金利が上がり始めれば金利差によりドル高円安圧力が強まる。それは2011 年後半から2012 年にかけて実現するであろう。円安反転は、日本の賃金水準を国際比価で見て大きく引き下げるので、日本における賃金引上げ圧力を強め、本格的デフレ脱却と成長率の引き上げをもたらすだろう。


つまり今、円高持続局面で日本株高が始まったが、円安転換とともに株高が一段と加速する可能性が強まると考えられる。当然円高株高場面では内需関連が注目され、円安転換とともにグローバルプレイヤーにシフトするというセクター転換も想定される。


円ドルレートと日米金利差(3 ヶ月LIBOR)の推移/円ドルレートとIMM 通貨先物ポジション


(参考)
アジアにおける日本優位の国際分業に関しては、ストラテジーブレティン(38 号)2011 年1 月6 日


ストラテジーブレティン(38 号)2011.1.6
何故対中・対韓・対台の貿易黒字が増加し続けているのか
~アジアにおける日本先頭の雁行形態発展~


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悲観一色のニュースヘッドライン


世間の常識は中国・韓国の台頭、日本の下降、アジア経済における力関係の変化である。それも無理はない、①日本に氾濫する中国製品、②サムソン(半導体・エレクトロニクス製品の世界ナンバーワン企業)や現代自動車の躍進に対する日本のエース(ソニー、パナソニック、トヨタ、ホンダ)の停滞、③工場の海外移転と日本の空洞化、④半導体・携帯電話・液晶テレビ・など大半の先端エレクトロニクス製品での日本メーカーシェアの急下降、等など、ニュースヘッドラインの大半は日本の凋落を伝えるものばかりである。


東アジア諸国間貿易で日本一人勝ち


しかしそれを真っ向ら否定する重大な事実が進行している。それは東アジア諸国間貿易における日本の一人勝ちである。このところ日本の貿易黒字は対中(含む香港)、対台湾、対韓国で大きく増加している。特に対中(含香港)貿易黒字は2010 年(推計)は4 兆円と急増。また韓国、台湾では対日貿易赤字の対GDP 比率が急速に上昇している。2010 年1~10 月実績をベースとした年間推計を行うと、台湾の対日貿易赤字の対名目GDP 比は7.2%、韓国の対日貿易赤字の名目GDP 比は3.6%と急上昇し、かつ著しい高水準に達している。中国でも対日貿易赤字の対GDP 比率は大きく上昇し2010 年(推計)では0.7%と上昇基調にある。他方日本の対米貿易黒字は2009 年大きく減少し2010 年の回復も小幅、対GDP 比率はかつてに比べ大きく低下している。


日本の対主要国貿易収支推移/主要国の対日貿易赤字対GDP 比推移


浮上する日本の優位性


この相反する二つの事実をどう解釈するべきか。まず以下の3 点が指摘できる。


① エレクトロニクス、機械、自動車などの最終製品市場であるアメリカでは日本のプレゼンスは低下。日本は高級品や高技術資本財に特化し、ボリュームゾーン商品は韓国・中国・台湾メーカーが優勢に。⇒日本の対米国黒字大幅低下


② アジア域内での分業が鮮明化、日本はハイテク素材(化学、メタル、セラミックなど)、ハイテク部品、ハイテク機械に特化し、最終製品は限られた高級品・先端技術分野に限定されつつある。日本企業による最終完成品生産も、ボリュームゾーン品はアジアへ生産シフト。


③ 日本が特化しつつあるハイテク素材(化学、メタル、セラミックなど)、ハイテク部品、ハイテク機械、高級かつ先端技術分野の最終製品は技術的ブラックボックスを持ち、非価格競争力が依然強く、容易にはアジアメーカーに追いつかれない。また価格主導権を持ち円高時にはドル建て輸出価格も引き上げられている(通関統計によるとアジア向け輸出価格は円高にもかかわらず全く低下していない)。⇒日本の対アジア黒字増加


アジアにおける雁行形態的分業の進展


以上は、アジアにおいては以下のような分業が確立されつつあることを物語っている。


① 技術集約度の高いブラックボックス(素材、部品、装置)への日本特化
② 技術集約度中位の最終組み立て製品の韓国、台湾への集中
③ 労働集約的最終組み立て工程の中国、東南アジア諸国への集中


という域内分業の成立である。グローバル企業も(日本メーカーも)自らのサプライチェーンを日本、韓国・台湾、中国・東南アジアとアジア全域に展開させ、企業内工程間分業をより明確にさせつつある。


サムスン、現代が躍進すればするほど、韓国は日本からのブラックボックス=高価格製品輸入を増加させざるを得ず、それが韓国の対日貿易赤字を増加させるという構図である。つまりアジアの製造業において日本を先頭とする雁行形態的分業関係が形成されつつあると考えられる。それは日本経済が引き続き競争力優位を維持していることを示唆している。市場にまん延している日本悲観論は著しく的外れと言うことである。