心理悪化とポジション整理以外に株安の理由なし

心理悪化とポジション整理以外に株安の理由なし
~底入れの正確な目処はつきにくいが、大きな反動高のエネルギーたまる~


 世界的に、不安が極度に強まる状況(世界的な株安、日米独の国債価格高(利回りの低下)、金価格上昇、金以外の国際商品市況安、介入効果を除いての外貨安・円高気味の推移)が続いてきたが、昨日(8/8、月)の米国株式市場は、さらなる大幅安となった。ニューヨークダウ工業株指数は、前日比で634.73 ドル安(5.55%安)となり、下げ幅は歴代6位である(※1)。


 下げは昨日の米州他市場(ブラジルボベスパ指数は前日比8.08%の大幅下落)や本日のアジア市場にも波及しており、目先は株価等の下げの目処(どこまで下げるか、いつ下げ止まるか)が立ちにくい状況となっている。特に投資家のリスク回避的な態度と金を除く国際商品市況安が生じているので、リスク回避からはエマージング株式・通貨に売りが嵩みやすく、国際商品市況安からは資源国が売りを浴びやすい。このため、中長期的には経済成長が期待でき有望な投資対象である、ブラジルや豪州の株価・通貨の調整が、大きくなってしまっている。


 足元の株安の起点となっている米国株式相場をどう見るかについては、実態を無視した心理悪による下落であると考えている。これに、相場観とは別のポジション整理(ロスカットルールに沿って機械的に売られているとか、機関投資家が内部の運用規定にしたがって機械的な損切りを出しているとか)が加わっているものと推察される。


 そう考える背景としては、まず最近悪材料としてはやされたものは、米債務上限引き上げ問題やそれに伴う米国債のデフォルトリスク、さらに8/5 のS&P社の国債格下げなど、米国債に絡むものばかりであった。もしこうした悪材料を受けて米国債が売られ、それが他市場に波及していくのであれば、実態悪(たとえば長期金利上昇による米景気の悪化等)を懸念した株安、などと考えられる。しかしこのところ長期金利は低下気味で推移しており、昨日も10 年国債利回りは2.305%と前日に比べ0.014%幅低下している。したがって、「ご本尊」の米国債券市場が揺らいでいないのに、周りの市場ばかりが大騒ぎをしている、という状況だ。


 肝心の米国景気についても、先週末(8/5)発表の7月分の雇用統計が堅調であったことにも表れている(※2)ように、全般的に経済指標は強弱まだら模様ではあるが、一方的に景気が弱くなっている状況ではない。週次の小売売上高(金額は1977 年平均を100 として指数化されている)をみても(図1)、この図からは米国の個人消費のどこが弱いのか、指摘することが難しいほどの堅調さだ。


週間小売売上高の推移



(※1)先週木曜日(8/4)の前日比512.76 ドル安は、(昨日の下落記録を含めて)歴代10 位となった。
(※2)7月分の非農業部門雇用者数は前月比で11.7 万人増と、市場予想の8.5 万人増も6月の4.6 万人増も上回った。7月の失業率は6月の9.2%から9.1%に低下。


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 また、最近の市場動向が実態経済に与える影響も、悪いものばかりではないだろう。もちろん、株価の大幅下落が逆資産効果を生んで個人消費に悪影響を与えたり、株価下落が景気の不透明感を強め、企業の行動を慎重化させたりすることはあるだろう。しかし一方で、長期金利の低下が借り入れ需要を増加させる、あるいは住宅ローンの低金利物への借り換えで家計の負担が減少する(図2)、などのプラス効果もあるだろう。加えて、一時期はガソリン価格高が景気を圧迫することが懸念されていたが(図3)、足元の原油価格安が、時差を伴ってガソリン価格を押し下げ、景気の負担を軽減することも考えられる。


住宅ローン金利と国債利回りの推移


米国ガソリン小売価格の推移


S&P500指数のPER


VIX指数の推移


 市場関連の諸指標をみても、売られ過ぎを示唆するものが多くなっている。たとえば予想PER(一年先までの予想利益によるもの、ブルームバーグ集計によるアナリスト予想の平均値)をみると、S&P500指数では昨日(8/8)は11.2 倍にまで急低下している(図4)。これはリーマンショック後の株価の大幅下落局面以来である。リーマンショック当時「世界景気は百年に一度の大恐慌に陥るに違いない」「リーマンブラザーズ以外の米大手金融機関もばたばたと倒産するだろう」と喧伝され、市場がそれを信じ切った時(実際には、普通の不況であり百年に一度の大恐慌ではなかったし、リーマンブラザーズ以外の大手金融機関はほとんど破綻しなかったので、それらの説は間違いであったが)と同様の水準のPERというのは、売られ過ぎ感が強いと言える。

 また、市場の不安心理を反映する指標であるVIX指数(S&P500指数の変動率見込みを市場で売買しているが、その価格を表すもので、この指数が高いほど、市場参加者が今後のS&P500指数の変動が強まる(市場が荒れる)と考えていることを示す)をみても(図5)、昨日は48.0 に達し、ギリシャ債務懸念が最初に大きく取り上げられた局面の2010 年5月20 日に記録した45.8 を抜いて、リーマンショック後の2008 年11月の水準にはまだ及ばないものの、それに次ぐ高さとなっている。これも、株式市場での不安感が極端に強まったことを示している。


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 このように、実態悪というより、心理不安を反映した米国発の世界株安となっていると考えられる。このため、いずれ実態に沿った方向へと、世界株価は底入れ反転上昇するだろう。ただし、心理による下げであるため、いつどこまで株価が下げて、何のきっかけで反転するのかは、事前に見込みにくいことも確かだ。


 市場で何かきっかけになるかもしれない、と期待されているのは、本日(8/9、火)のFOMC(連邦公開市場委員会)だ(※3)。ただし、現時点では実体経済が悪化してるわけではないので、連銀がQE3(量的緩和第三弾)に踏み切る可能性はほとんどないだろう。とは言うものの、株価下落が一段と進行し、実体経済がそれに引きずりこまれる可能性があることに対しては、何らかの対策を打ち出すだろう。そうした対策として具体的に考えられるのは、1)株価下落が景気を悪化させることが懸念される場合は、迅速に対応する用意があるとの声明を出す、2)現在のゼロ金利と、QE2で購入した債券等の残高維持を、「かなり長い期間」持続すると宣言する、3)QE2で購入し保有している債券の内容を、短期債から長期債に入れ替え、長期債の金利上昇を抑制する姿勢を明確にする、などだ。


 「なんだ、QE3はないのか」と行き過ぎた期待が裏切られて失望する向きはあるだろうが、連銀が市場動向を踏まえて即時に行動している、ということは、市場心理の下支えとなると考えられる(それでも、FOMC一つで一気に市場が好転するという事態は想定しにくい)。

 以上を踏まえた投資戦略としては、ここ数日の市場動向は極めて予測しがたい(株価等がまだ下に抜けるかもしれないが、急速に上に跳ねるかもしれない)ので、引き続き、レバレッジが高い取引(特にFXやCFDなど)で、追加担保の差し入れやロスカットのリスクをおかすようなポジションは(売りも買いも)お薦めしない。


 既にリスク資産(株式、外貨など)の買いポジションを有していて、売却が容易・即時のものであれば、目先数日の下落リスクを回避するため、すぐに売って下値で買い戻す、という戦略は、有効性が否定はできない。ただし前述のように、下げが速かっただけに戻りも急速な可能性が高いので、むしろ買いポジションを多少の下げがあっても持ち切れるのであれば(たとえば株式現物や投資信託など)、売買をせずに中期的な反転上昇を待った方がよいだろう。


 新規の売りポジションの構築は、よほど短期的な売買に自信がない場合はやめた方がいいだろう。既に以前に売りポジションを持っていて、利益が出ている場合は、欲張らずにそろそろ利食いを出してもよいと考える。


 株式・外貨等の新規の買いポジションの構築は、レバレッジをかけない、あるいはレバレッジを相当抑えた形で、徐々にであれば、既に始めてよいのではないだろうか。底値で全部一気に買おう、とは考えず、時間分散して買い下がるつもりで始めるのがよいだろう。これだけ大きく下落した相場であるので、一度反転局面に入れば、比較的長い期間の上昇が続くと考える。したがって、底値での買いを逃して後から買いを入れても、中長期的な上昇を享受できるだろう。収益性と安全性の両方を追求するという面では、CB(転換社債)は買いの有力な選択肢であろう。


 こうした局面での有効なキーワードは「欲張ってポジションを目一杯張ることはしない」「パニックにならない」「頭と尻尾は犬にくれてやれ(一番の安値で買って一番の高値で売ろうとは考えない)」である。



(※3)FOMC後の声明が発表されるのは、日本時間で本日(8/9)の深夜か、明日(8/10)入り直後辺りと見込まれる。