新興国の通貨急落~通貨危機の前触れ?~

米国株vs.米国長期金利(2013年9月~)
先週末(1月24日)の米国株式市場は大幅続落、ほぼ一ヶ月ぶりの安値まで下落した。債券市場でも米10年金利が2.72%と大きく低下。2013年12月半ばの米FRBテーパリング決定で市場心理が改善、世界的に株高・金利上昇が起きたが、それ以前の状況に米国の株価・金利水準が戻ったことになる(グラフ参照)。
ドル対アルゼンチンペソの推移(2014年1月20日~)
報道で伝えられているが、アルゼンチンの通貨ペソが23日に僅か1時間で10%以上急落し(グラフ参照)、これをきっかけにトルコリラなどの新興国通貨に売りが波及。2013年から停滞が続く新興国経済の脆弱性への懸念が高まり、「何が起こるか分からない」という不確実性から、リスク資産を手離す動きが広がった。

先週のアルゼンチン当局者の発言をきっかけとした、ペソの急落が大きかったため、市場では通貨金融危機発生が連想された。同国のようにインフレ率が高い国で、行き過ぎた通貨安が進むと、インフレが進み経済が不安定化する悪循環に陥る。筆者は南米経済を詳しく見ていないのでこのリスクを判断するのは難しいが、アルゼンチンの債務不履行の歴史が、テールリスクを想起させた面があるのだろう。
豪ドルvs.レアル(2013年4月~)
そして、アルゼンチンの通貨急落は、1990年代半ばのメキシコ危機、アジア通貨危機との類似性が意識されている面もある。新興国の通貨危機時に、米国の金利上昇やドル高が一因となり、新興国の対外資金調達が変調を巻き起こし通貨危機を引き起こすケースが一般的である。実際に危機が起こるかどうかはともかく、米FRBの政策変更が新興国を巡るマネーフローを変えるとの思惑は常に起こる。このため、米FRBによるテーパリング(量的金融緩和縮小)の実現可能性が高まった2013年半ばから経常赤字の新興国通貨(ブラジル、インドなど)や、豪ドルなど資源国通貨下落が広範囲に起きた(グラフ参照)。

今回のアルゼンチンの通貨急落をきっかけに、新興国発の深刻で広範囲な通貨危機が起こるだろうか?不確実な面が大きいが、今回の通貨ペソの急落については、冷静に考えることができる点が2つある。

1つは、先に述べたが、新興国の通貨下落は2013年半ばから起きており、今回のアルゼンチンの通貨急落はその流れで位置づけられる、ことである。先に説明したが、2013年半ばからブラジルレアル・豪ドルなど新興・資源国の通貨安が起き、新興国通貨建ての金融資産は大きく目減りした。ただこの動きが危機を引き起こし、2013年の先進国を中心とした世界経済の回復基調を変えるには至らなかった。世界経済の趨勢を決める米国経済はほとんど影響を受けなかった。今回のアルゼンチンの通貨安は、新興通貨売りの最終地点と位置付けられるかもしれない。

もう1つは通貨制度の違いである。かつて起きた中南米やアジアでの深刻な通貨危機は、各国が固定相場制度を採用していたことが大きく影響した。固定相場制度を採用すると、市場で通貨売りが起こると、ドル建ての外貨準備高が枯渇でそれを維持できなくなる。それを見越して投資家は通貨売りポジションを増やし続けることで、投資家は大きな利益を得ることができる。固定相場制度制が打破され変動相場制度への移行が続くまで「通貨アタック」が続き、その過程で金融システムが不安定になり、周辺国に危機や経済停滞が広がる。これが通貨危機の典型的なパターンである。

一方、現在多くの新興国は変動相場制度を採用しており、市場が一方的な通貨売りで莫大な利益を得ることが難しい。変動相場制だと通貨安が続けば、通貨売りで利益が生み出されるが、通貨安が進み割安とみなされれば、市場では通貨買いが起こるからである(これは固定相場制度では起こらない)。

以上2点、今回のマーケットの混乱のきっかけとなった、アルゼンチンなど新興国の通貨急落について考えた。ただ、今回突然発生した混乱がいつ収まるかどうかは、通貨安に対する政治対応などが影響するので何とも言えない。

米FRBのテーパリングへの思惑だけではなく、新興国の通貨安が起きた理由として、各新興国経済に影響を及ぼす中国に起因するリスクがある。今週、中国の大手銀行が販売した理財商品(信託商品)の償還が実現しない可能性が、報じられていることがある。

この事態の行く末そのインパクトへの懸念に、テーパリングを巡る思惑が重なったことで、先週から新興国通貨売りが強まった。また、今週FOMCが行われることもあり、これらのイベント後の新興国通貨の値動きなどから、市場の混乱が落ち着くのを冷静に判断したい。

現在市場では新興国発の金融危機が意識され始めているが、それが行き過ぎた懸念であれば、2013年も何回か起きたが、株式市場の急落は押し目買いの機会となり得る。先に述べたとおり、目先、不確実なイベントを控えているため過度のリスクテイクは禁物だが、リスク資産急落による潜在的な投資機会を上手く生かしたい局面である。