足元のユーロと豪ドルの軟化について

足元のユーロと豪ドルの軟化について
~売られ過ぎと考えるが、上値が極めて重くなったことも否めない~


 為替市場において円高気味の相場展開が続いている。米ドルは、本日(9/21)朝方に一時76.12 円の安値をつけたが一時的であり、9/1 付「花の一里塚」9月号の予想レンジ下限である76 円を下回ることなく推移している。


 一方、ユーロや豪ドルについては、9/9 から9/12 にかけて対円で下げ足を速め、同「花の一里塚」の予想レンジ下限(ユーロは107 円、豪ドルは80 円)を大きく割り込んでしまった。その後、レンジ内に戻るかのような反転上昇の動きを見せたため、推移を見守っていたが、今週(9/19~)になって再度ユーロ・豪ドル安、円高の動きが強まった。


 このユーロ安・豪ドル安の背景としては、欧州や豪州の経済実態面というより、ギリシャ財政懸念による世界的な市場波乱・リスク回避的な投資行動の表れであり、ユーロ、豪ドルともに、売られ過ぎの様相が強いと考えている。このように売られ過ぎが再度行き過ぎる展開を予想できず、見通しを誤ったことは反省すべきと考えるが、後述するように売られ過ぎが解消することにより、早晩ユーロ・豪ドル相場は予想レンジ内に戻ると見込んでいる。


 ただしその一方で、ユーロや豪ドルの本格上昇には時間がかかる展開になった、と考えざるを得ない要因も増えている。このため、10/1 発行予定の「花の一里塚」10 月号では、今年末までの予想レンジ上限(ユーロは125 円、豪ドルは97 円)を引き下げる方向で検討している。


 このように考える背景を、ユーロ、豪ドル、それぞれについて述べると、次のようになる。


1.ユーロは、欧州諸国の政治的な「時間稼ぎ作戦」に付き合わざるを得ない展開に


 9月に入って再度(再々度?)ギリシャの財政問題に対する懸念が広がったのは、10 月初までにEU(欧州連合)やIMF(国際通貨基金)からギリシャへの追加融資が発動されないと、ギリシャは資金繰りに行き詰まり、デフォルトする展開を余儀なくされるからである。EUやIMFも「貸し手責任」があるので、状況がどうなろうとギリシャに融資をしてくれるというわけではなく、ギリシャの景気や財政赤字削減状況を査定し、査定結果によって追加融資を行なうかどうか決定するという形になっている。9月に入って、ギリシャが予定通りの財政赤字削減ができないと放り出して、EUやIMF(およびECB、欧州中央銀行)の代表団がアテネから帰るという展開になったため、ギリシャのデフォルト懸念が一気に拡大したわけだ。


 結局はその後、ギリシャが不動産税の新設など追加の財政赤字削減策を打ち出し(9/11)、欧州内の諸会議や独仏ギリシャの首脳電話会談(9/14)などが催され、追加融資をする方向となっている。しかしEU等が追加融資を行なうのに、ギリシャの取り組みなどについて今月末前後のぎりぎりのタイミングまで見極める、という「先送り」の展開となったため、今週初に欧州株の下落とユーロ安が生じる展開となった。追加融資を行なう方針自体には現時点で全く変化はなく、もし融資を行なわずに10 月にギリシャがデフォルトすれば欧州全体が大混乱に陥りかねないため、追加融資は実行されるだろう。それにもかかわらず、足元でもしばしば市場に混乱が生じているのは、政治的な側面が強まってしまったからだ。たとえばドイツ国内では、「なぜ我々ドイツ人が、ギリシャ財政支援の負担をしなければならないのか」という不満が渦巻いているため、ドイツ政府としては国内向けに「いやいや、我々ドイツ政府はギリシャに対して甘くはありませんよ、ギリシャが痛みを伴う財政赤字削減をしっかりやらない場合は、融資はしませんよ」という姿勢を示さざるを得ない。すると市場はこうしたドイツなどの強硬姿勢(のふり)を額面通り受け取り、「融資はないかもしれないのか、では、ギリシャはすぐにでもデフォルトだ」と脅えてしまうわけだ。


 今回追加融資が行なわれたとして、その資金では、3カ月ほどの資金繰りがつくにすぎないとみられる。すると12 月頃には、また追加融資するかどうかの査定が行なわれ、政治ショーが繰り返される展開となる。その後も、同じことが何度も反復される展開になると見込まれる。


 したがってユーロ相場は、今はギリシャがデフォルトする可能性(並びにギリシャ国債を保有している金融機関が大きな損失をこうむる可能性)を相当織り込んでしまっているため、売られ過ぎであると考えられ、今月あるいは来月初に追加融資が実施されれば、一旦はユーロが上昇すると見込まれる。しかしその先、また「追加融資が実施されないかもしれない」→「結局実施された」→「次の追加融資は実施されないかも」→「やはり実施された」という展開を繰り返すため、そのたびにユーロ相場は上下を余儀なくされ、なかなか本格的な上昇に入ることができない恐れが強い。


 こうした「政治ショー」に辟易しているのは、市場だけではない。9/16~17 のEU財務相・中央銀行総裁会議には、異例なことにガイトナー米財務長官が出席したが、米国として言いたかったことは「おまえら、もういいかげんにしろ」ではなかったか。


 さて、このように追加融資が繰り返されると見込まれるわけだが、ギリシャは自国景気の悪化が続く中、一気に財政赤字を解消できるとは予想しがたく、いつかは本格的なデフォルト(国債の大幅な額面カットなどによる、債務残高の削減)を行なわざるを得ないだろう。すなわち、追加融資の繰り返しは、時間稼ぎに過ぎないわけで、ユーロ相場はしばらく「時間稼ぎ作戦」に付き合わされることになる。


 しかし時間稼ぎとは、全く意味のない先送りではない。ギリシャ財政懸念が大きく市場で取り上げられているのは、同様の財政破綻がイタリアやスペインなどの大国でも起こるかもしれない、という懸念と、ギリシャ国債を保有する欧州等の金融機関の経営危機へと広がるかもしれない、という懸念とがあるためだ。


 まず時間稼ぎをしている間に、EFSF(欧州金融安定ファシリティー)などの財政悪化国救済のための機構を拡大し、ギリシャ以外の国の財政懸念に対応する仕組みを拡充することができる。またイタリアやスペインなどは、現在でも新規の財政赤字削減策を打ち出したり、既存の策の実行を推し進めたりするなど、自助努力を続けており、ギリシャがデフォルトする時点で、イタリアやスペインに対する財政懸念がかなり縮小しているといった展開もありうるだろう。
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 民間の金融機関については、時間稼ぎの間に、保有するギリシャ国債について、損失を引き当て、簿残を削減していくことができる。たとえばギリシャ国債の保有評価額をゼロにまで引き下げてしまえば、ギリシャ国債がデフォルトして紙くずになったとしても、その時点での追加損失は全く発生しない(※1)。また、各銀行が可能であれば増資などを行なって、自己資本を充実することも可能だ。加えて、目先の銀行の資金繰り不安については、ECBや日米等の中央銀行が、米ドル資金を融通する旨を表明し、備えている。


 こうしたことから、時間稼ぎをしている間に、ギリシャに対する追加融資の有無を巡る市場の波乱は徐々に縮小していき、実際にギリシャ国債がデフォルトした時点では、無用の混乱は抑え込まれているのではないだろうか。


 なお、ユーロ圏の実体景気については、中核となるドイツ経済は堅調に推移している。これは、通貨ユーロの相場と政策金利の水準は、「弱い国」を含めたユーロ圏全体に合わせられるため、ドイツは実力不相応の弱いユーロと低い金利(特にリスク回避からドイツ長期国債利回りは大幅に低下している)を享受できるからだ。


 ドイツ企業の景況感を示すIFO指数をみると(図1)、足元のギリシャ問題を巡る政治的なごたごたから、将来に対する警戒感が大きく広がっている(期待指数の落ち込み)。これが雇用計画や設備投資計画を慎重化させる恐れはあるが、現状指数については、リーマンショック前のピークに並ぶ水準を維持している。すなわち、ドイツの企業から見れば、先行きは何となく不安だが、現在の景気はかなり強い、と映っているということであり、ドイツ景気の現状の腰の強さを示していると言えるだろう。


IFO指数の推移


2.豪ドルは世界的なリスク回避から売られ過ぎだが、豪長期金利の大幅低下が重しに


 豪州については、世界景気全般の不透明感を背景に、景気の減速色が強まっていることは事実だ。たとえば失業率は、リーマンショック直後のピークである5.9%(2009年6月)から2011 年3月・4月には4.9%にまで低下したが、直近の2011 年8月は5.3%にまで上昇してきている。小売売上の伸びも、近年のなかでは低水準で推移している(図2)。
豪州の小売売上高前年比の推移


 ただし小売売上の伸びのもたつきは、リーマンショックを受けて2009 年まで種々の景気対策(住宅購入に対する補助金や家計への一時金支給、2009 年10 月初までの金融緩和政策など)が取られて消費が大きく伸びたことの反動が、未だに続いていると見ることもできる。また、今年1月の洪水の悪影響もあるだろう。


 したがって、豪ドルの最近の調整は、豪州の景気情勢が本格的に悪くなっているというより、世界市場波乱の一環としてのリスク回避的な投資態度により、豪ドルから資金を引き揚げる動きが行き過ぎているためであると考えられる。このため、ギリシャ財政懸念を中心とした市場の波乱が、目先のギリシャ向け追加融資でひと段落すると、豪ドルも底入れ上昇に向かうと予想している。



※1 現実には、ギリシャ国債の簿価をゼロにまで下げるとか、ギリシャ国債がデフォルトして価値がゼロになる、といった展開はないだろう。</


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 しかし、本格的に豪ドルが上昇基調を鮮明にするには、豪長期金利の反発が必要だろう。豪州10 年国債利回りは、最近急低下している(図3)。特に政策金利を下回る状態で、これを額面通りに解釈すれば、長期国債市場は利下げを予想していることとなる。


豪州の政策金利と豪10年国債利回り


 とは言うものの、リーマンショック直後の世界経済混乱と並ぶ水準の長期金利というのは、余りにも下げ過ぎであると考えられる(リーマンショック後の最低金利は2009年1月15 日の3.851%、最近の最低水準は2011 年9月14 日の4.089%、直近9月21 日の終値は4.204%)。RBA(豪州準備銀行)は利上げの見送りは続けているものの、スティーブンスRBA総裁は「インフレを注意して見守る必要がある」と発言する(8/26)など、利下げに転じそうな気配は一切見せていない。また、9/7 発表の4~6月の実質経済成長率は前期比で1.2%増と、アナリストの予想平均値(ブルームバーグ調べ)の1.0%を上回った。


 したがって、現在世界的なリスク回避的な投資行動から、日本や米国、ドイツの国債と並んで豪州長期債が買い上げられているといった、行き過ぎた状態であり、いずれ豪州長期金利は上昇し、それにつれて豪ドルも上昇すると見込んでいる。しかし一方で、行き過ぎであろうと実態からかい離していようと、現実に豪長期金利が低下してしまっていることはまぎれもない事実であり、日豪金利差を踏まえれば、豪州の長期金利が現水準から余り動かない間は、豪ドルの上値も重いものと考えられる。


 これらを踏まえれば、豪ドルの上昇が中長期的に期待できるものの、豪長期金利の推移をにらみながら慎重に、といった、上値の重い展開が予想できるのである。