債務史観vs 生産性史観 その②

債務史観vs 生産性史観 その②
NY ダウ工業株100 年史、歴史は生産性と信用によって発展してきた


債務史観vs 生産性史観、シリーズ第二段として、NY ダウ工業株の100 年の歴史分析を通して、将来展望の手がかりを探ってみる。過去生産性と信用(債務)がマッチした時に株価は大きく飛躍してきたことが分かる。現在、世界金融危機が深化し、株価下落が自己実現的な同時不況をもたらしかねない状況にある。現在の世界金融大波乱の原因は何か、どのような将来が待っているのか、それら探るためには、歴史の検証が不可欠であろう。


株価と経済の停滞と発展


図表1 はNY ダウ100 年の推移を、対数目盛りにより表示したものである。100 年の歴史を振り返ると、米国株式は長期停滞の時期と、それに相次ぐ急上昇の時期が繰り返されてきたことが明瞭である。①1920 年までの上昇、②1920 年から1934 年(または1942 年)までの停滞、③1934 年(または1942 年)以降1972 年(または1966 年)までの急上昇、④1972 年(または1966 年)から1982 年までの停滞、④1982 年から1999 年までの急上昇、⑤1999 年以降の停滞ある。現在は⑤の長期停滞の末期(出口?) にある、と考えられる。


関門となる100、1000、10,000 ドルの大台


奇妙なことだが、過去の長期停滞は、ダウ100 ドル、1,000 ドル、10,000 ドルの大台に到達した時点で始まり、その大台を完全に離れるのに10~20 年の時間がかかっている。そして一度大台を離れると、NY ダウは一気に10 倍に上昇すると言うパターンが、繰り返されてきた。我々の関心事は次の2 点に尽きるだろう。第一は過去100 年間で2 回あった10 倍の長期株価上昇は何によってもたらされたのか、そしてそれは今後も繰り返されるのかであり、第二の関心事は、現在はどのような局面と位置づけられるのか、である。


金価格との相関


詳細な検証は経済史の専門家に委ねなくてはならないが、さし当たっての大枠の見当だけはつけられるのではないだろうか。長期停滞から脱して株価が急上昇を開始した1930 年代後半~40 年代初頭、と1980 年代初頭、共通して起こったことは、金価格の上昇である。そして金価格の上昇はその後の長期株価上昇のさきがけとなった。


NY ダウ工業株指数の推移と貨幣創造


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繁栄の3 条件①、地政学レジーム


どのような条件がそろった時に米国株価の長期上昇が起こったのだろうか。過去を振り返ると少なくとも3 つの条件が伴っていたことが伺える。概略を図表2 に示す。第一は地政学レジーム、第二は技術革新に基づく生産性上昇(=供給力の増大)、第三は需要創造メカニズムとしての通貨制度である。まず第一のレジームについては、経済の繁栄には自由な通商と金融を保障する政治基盤が不可欠である。そうしたレジームとして1940 年代以降米国が西側世界の支配者となるPax Americanaが大きな基盤となった。また1980~90 年代の繁栄の背景には、共産圏の崩壊による、米国覇権の世界制覇があった。Globalstandard と言う名前のAmerican standard は世界唯一の超大国と言う米国の圧倒的プレゼンスの下で可能となった。


繁栄の3 条件②、生産性革命


第二に技術革新が、生産性を飛躍的に高め経済成長を促進したことに異論の余地はあるまい。1940~60 年代に花開いた米国での高度消費社会は石油エネルギーの基盤の下で、電気・自動車が象徴となった。また1980 年代以降の半導体技術革新に起因する情報化革命がビジネスモデルを一新した。もっとも技術革新と生産性の向上は、供給力の増大を必然的にもたらす。仮に需要が増加しなければ、生産性上昇=供給力増大は、過剰生産と失業増加に帰結する。実は生産性上昇は諸刃の剣であり、それのみでは経済は繁栄できないのである。


繁栄の3 条件③、需要創造メカニズム、通貨制度


そこで第三の需要創造のメカニズムの創設が必須となる。1930 年代の大恐慌は、まさに増大する生産能力と需要不足とのギャップによって起こった。経済手段による需要創造のメカニズムが通貨制度の発明、信用の拡大であろう(戦争や植民地支配はそうした需要不足に対する政治的=帝国主義的対応に他ならなかった)。実際、1940~60 年代の繁栄の背景には、管理通貨制度の導入があった。金本位制の下では金保有により制約されていたマネー供給が、自由になったために、経済が求める最適マネーが供給されるようになり、信用の増大が需要創造メカニズムとして働いた。また1980 年代以降は、それまで米国の金保有に制約されていたグローバルマネー供給が、ニクソンショックによって制約を解き放たれ、いわゆるペパードルの垂れ流しが起こった。それは過度の投機やバブル形成と言う副作用はあったものの、日本を筆頭にアジア諸国を工業化させ、世界経済の成長率を大きく押し上げた。



今後3 つの条件はどうなるのか


このように過去の繁栄期においては、少なくとも3 つの必要条件がそろった時に経済が飛躍し、株価が長期上昇をしたことが明らかであるとすれば、今後はどうなるのだろうか。地政学レジームと言う点では米国の一極支配から「世界共和国」と言うべき統治形態に移行していくのではないだろうか。アメリカは世界の覇権国から「世界共和国(Global Commonwealth)」のリーダーへと変質しようとしている。良くも悪くも米国価値観を押し付けようとしていると受け取られたブッシュ前大統領のアメリカから、オバマ大統領のアメリカへの転換である。オバマ大統領は初の黒人大統領であるだけではなく、核廃絶の呼びかけ、自制的リビア攻撃、イスラエルに対する1967 年以降の占領地返還要求など、著しく国際世論に配慮した政策にシフトしつつある。なぜアメリカが変質しようとしているか、3 つの要因が指摘される。第一は米国経済の相対的地盤沈下・新興国の発言力の高まり、第二に米国の価値観と制度の世界普及が鮮明になったこと、第三に米国が世界新時代の潮流であるフラット化・分散化・開放化の技術変化、制度変化を主導していること、である。つまり米国は「世界共和国(GlobalCommonwealth)」の実現により国益を貫徹しようとしているのである。それでは「世界共和国(Global Commonwealth)」の理念として共有されつつある事柄とはどのようなものか。①民主主義、人権擁護、②市場経済、資本主義、③インターネット環境への対応、適用、フラット化、④地球環境の保全、⑤Global Governance の発揮(世界各国の夜警国家化、治安権力化)などが骨格となるアジェンダではないか。各国政府は「世界共和国(Global Commonwealth)」の理念遂行を、分担して担う主体となりつつある。第二の技術革新、生産性増大と言う点では、インターネット技術・文化・経済様式の発展、脱石油(原子力)新エネルギー革命が展望される。またグローバリゼーションにより引き続き着実な生産性の向上が期待できよう。そこで問題となるのは第三の需要創造のメカニズムの創設である。従来の信用方式はサブプライム危機、ギリシャ危機との相次ぐ金融危機により、機能しなくなりつつある。そして、第三の通貨・信用システムないしは他の需要創造のメカニズムが発見される時に、経済・雇用と株式は再度大きく上昇する時代に入るのではなかろうか。金価格の上昇とそれをもたらしたFRB の量的金融緩和はそうした新時代金融通貨制度の生みの苦しみを示唆しているのかもしれない。このように考えると現在は、1999 年から続いている長期停滞の最中か出口近辺に位置している可能性が強い、と考えられる。ギリシャと欧州の金融情勢、米国住宅問題と家計のデレバレッジ化などの過去からの負の遺産を消化しながら上述の3 条件がどのようにそろえられて行くのか、先入観は許されない局面にあると言える。