円安効果は一過性か?

円安効果をごく単純化し考察
2011年10月にピークをつけた円高は、2012年11月にトレンドラインを割り込み、以降は円安効果により、製造業の収益が好転、物価上昇、デフレ脱却と進んできた。しかし、そのことに異論を挟まない人の中にでも、それは1年で20%ほどの円安が続いたためで、今後の円安のペースが鈍ると、製造業の増益傾向は止まり、輸入価格の上昇もストップするから、消費者物価の上昇率はむしろ今後鈍化していく可能性が高いとする人がいる。だから、円安効果は一過性で終わると言う。

画像説明:世界各国、地域への外国人訪問者数(2012年)日本政府観光局

一見すると、説得力のある意見だが、私の意見は違う。

円安のペースが鈍ると、前年比で見る消費者物価の上昇率が鈍ることは疑いがない。また、前年比でみる製造業の増益傾向も鈍る可能性が高い。しかし、単に前年比との比較で見るインフレ率と、企業収益とを混同していては、円安効果を見誤る。

産業を外需と内需とに大別し、円安効果をごく単純化して考えてみよう。

円安により輸出製造業の原材料コストは上昇する。しかし、最も大きな人件費などはほとんど上昇しない。一方で、外貨での販売価格は値引き販売をしない限りは変わらない。そこで、外貨の売上を円貨に直した時に、円建て売上高が2割増える形となる。現地での販売数量の減少が2割以内ならば、増収となる。増収でコストが余り変わらなければ、増益となる。これが現実に起きていることだ。

80円から100円になる過程で、こうして増益となった輸出製造業が、100円のままで来期を迎えると、他の条件が何も変わらなければ増収とはならない。人件費が多少上昇すれば、減益になってしまう。では、それで円安効果は消えるだろうか?

日本の輸出製造業は円高進行のために、常に儲からないぎりぎりのところで事業を行ってきた。赤字は当たり前で、破綻や支援を仰いだ企業も数多い。開発よりもコスト、競争よりも生き残りだった。それが、外需に関しては売上総利益が2割増えたのだ。

この(円安)状態が続くことは、輸出製造業にとって、普通の状態に戻れたことを意味する。つまり、コストを考慮しながらも研究開発、生き残りだけではなく競争、人件費を上げてでも優秀な人材の確保となるのだ。これは円安効果が一過性ではないことを意味している。そして、もし120円になるとすれば、その分は超過利益となる。

内需はどうか? 円高が進行していた頃、海外製品がどんどん安くなったことの記憶はまだ新しい。外車からワインまで、消費者にとって円高の恩恵は大きかった。このことは、同時に国内産業を圧迫していたことを意味している。

円が独歩高となり、世界一高い通貨となったことで、日本は競争力を失い、名目的には世界有数の金持ちだと言われながら、銀座の百貨店は中国からの買い物客がなければ立ちいかなくなった。円高で苦しんだのは外需、内需を含めた、日本の産業全体だったのだ。

観光業における円安の効果は大きい。日本政府観光局の資料では、2012年末の時点で、日本への外国人訪問者数は835万8000人だったが、円が2割安くなったこともあり、2013年末には1000万人を突破した。

仮にこのままドル円が100円近辺で推移したとしても、内需はそれなりの競争力を保てるかと思う。円安効果は持続するのだ。

私は、長く続いた日本経済低迷の諸悪の根源は主に円高で、だからこそ、リーマンショック後の円の独歩高には、為替介入でも何でもして、日本の国益を守る必要があると主張し続けてきた。同じく通貨高に苦しんだスイスフランは、為替介入で苦境を脱したからだ。

今回の円安転換は、貿易赤字となったこと、異次元緩和による円の供給、日米金利差の拡大と、為替介入なしで達成したものだ。つまり、この円安転換は円安にしようとつくったものではなく、円安になったものだ。その意味では、円安トレンドが続く可能性は高い。