リスク追求への潮流変化を確認した世界市場

リスク追求への潮流変化を確認した世界市場
~ただ一つ残る憂いは、米ドル安円高の持続~


 10 月初旬から、投資家が行き過ぎたリスク回避的な投資態度を改め、徐々にリスク追求型の投資スタンスへと変化させたことにより、株式、外貨(対円)、国際商品等のリスク資産の価格が上昇する流れが始まっていた。足元、堅調な米国経済指標や欧州諸会議で決定した財務問題対策などを受けて、そうしたリスク追求への潮流が確認されつつあると言えるだろう。


 ただし一つ残る懸念は、未だに底を打ったと言えない米ドルの対円相場である。この背景としては、日本政府(特に財務相)の円相場に対するスタンスが論理一貫していないことが挙げられるが、市場参加者も日本の企業や個人も振り回されている。


 まず、世界的な明るい流れとしては、リスク追求型の流れが進んでいることが指摘できる。主要なリスク資産の動きをみると(表)、多くの資産で10 月初旬を底として、価格が上昇傾向に入ってきたことが確認できる。なお、中国上海総合株価指数の最近の底値のタイミングが10 月下旬になっているが、中国は10/3~7 の期間が休場であったため、この期間に場が開いていれば、他国市場と同様に10 月初旬が最安値になった可能性があったと考える。もうひとつ底値のタイミングが他と異なるのは、未だに底値をうったとは言い難い米ドルの対円相場である。


 このように世界市場の潮流がリスク回避からリスク追求へと変化している理由としては、3点あるだろう。 まず1点目は、10 月初旬までのリスク回避的な態度(市場の恐怖)が、経済実態に比べて行き過ぎていたため、その行き過ぎが正常な方向へと修正されつつあることが挙げられる。たとえばVIX指数(米S&P500株価指数が、今後どの程度変動すると投資家が見込んでいるかを、S&P500のオプション価格から算出したもの)と金価格の移動平均線からのかい離率を比べると(図1)、通常は、株価が大荒れすると投資家が考えた時(VIX指数が上昇した時)は、安全資産と考えられている金が買われ、金価格が上ブレする傾向が見出せる(図中の丸印)。


主要な相場の最近の動き


VIX指数と金価格の移動平均かい離率の推移


 しかし10 月初旬は、VIX指数が上がりながら金価格が下ブレする展開が生じた(図中の「‼」印)。これは、世界市場における恐怖感が余りにも行き過ぎて、安全資産と言われる金ですら価格変動があるので避けたいといったように、リスク回避が極度に達したためと考えられる。現在は、そうした行き過ぎのリスク回避が後退し、正常な状態に向かっての修正が起こりつつあると推察されるわけだ。


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 またリスク追求への流れの変化を支えている理由の2点目としては、最近の米国経済指標の堅調さである(決して手放しで強いとも言えないが)。10/7 発表の9月の雇用統計(非農業部門雇用者数は前月比13.7 万人増と、市場予想の9.0 万人増を上回ったことに加え、8月分等も上方修正)、10/26 発表の9月の耐久財受注(設備投資の先行指標と言われる、航空機を除く非国防資本財受注は、前月比2.4%増と市場予想の0.5%増を上回る)、同日発表の9月の新築住宅販売件数(31.3 万戸と市場予想の30.0 万戸を上回る)など、経済実態そのものを示すデータ(ハードデータと言われる)(※1)に強いものが多い。また週次の小売売上統計を見ると(図2)、リーマンショック前の好景気時のピークを超えた水準での推移が続いている。


週間小売売上高の推移


 リスク追求への変化を支える第3の要因は、欧州における財政・金融問題について、対策の大枠が固まってきたことだ。市場は、10/21 のユーロ圏財務相会合、10/23 及び10/26 のEU(欧州連合)並びにユーロ圏の首脳会合の結果を注目してきた。結局、詳細については今後の詰めを残す形となったが、対策の大枠は組み上げられ、前進したと評価することができるだろう。


 大枠とは、すなわち次の3つにまとめることができる。①ギリシャの財政そのものの支援については、ギリシャ向け第6次追加融資(11 月に80 億ユーロ)に加え、民間銀行が「自発的に」ギリシャ国債の元本50%カットを受け入れる形で、民間銀行団とおおむね合意(※2)。②ギリシャに対する不安がイタリア、スペインなど他国に波及することを防ぐため、EFSF(欧州金融安定ファシリティー)の機能を拡充することに決定(EFSFが欧州諸国が発行する国債に保証をつけるという案と、EFSFと投資家が資金を出し合って特別目的事業体(SPV、Special Purpose Vehicle)を創設し、その資金を欧州諸国の国債の買い支えなどに活用する案の2案)。③ギリシャ国債の元本削減(や流通市場における欧州諸国の国債価格下落)が欧州金融機関の経営不安に波及することを防ぐため、11 月中にこれまでより厳しい条件でのストレステストの結果を公表し、それに基づいて自己資本比率が9%になるよう、各行が資本増強などの策を行なう(まず各行の自助努力による増資等を行ない、それで不足であれば各国政府が資本注入し、それでも足りなければEFSFから資本注入)。


 ちなみに、上記の③について、自己資本比率を高めるには増資(分子を増やす)のほかに資産削減(融資の回収など)(分母を減らす)が進められる可能性があるため、欧州内で貸し渋りや貸しはがしが横行し、欧州経済が悪化する、との論調が目立つ。それは事実である面は否定できないが、もし逆に自己資本比率上昇策が打ち出されなければ、欧州金融機関の経営不安が一段と広がり、各行は資金調達に苦労して、やはり融資回収などを進めざるを得なくなるだろう(それどころか、経営破たんが続出するような事態になれば、一気に信用収縮が進むこともありうるだろう)。すなわち、自己資本増強策を打ち出すことにより、打ち出さない場合よりも一段と貸し渋りが横行する、といった議論は誤っていると考える。


 以上のように、1)行き過ぎたリスク回避の後退、2)米国経済指標(ハードデータ)の堅調さ、3)欧州財政問題に対する策の進展、といった要因から、世界市場におけるリスク追求の動きが進んでいると言えるわけだ。



(※1)ハードデータに対し、企業心理や消費者心理など、心理面を測る指標をソフトデータと呼ぶ。最近の米国のソフトデータには弱いものが多くみられる。
(※2)民間金融機関保有分だけのギリシャ債務(国債)が半分になることにより、ギリシャ財政の総債務残高は、GDPの1.5 倍から1.2 倍に低下するとの試算が伝えられている。


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 さて、最後に残った頭痛の種が、たびたび史上最安値を更新している米ドルの対円相場である。米国の追加緩和思惑を米ドル安要因として挙げる声もあるが、すぐの(たとえば11/1~2 のFOMC(連邦公開市場委員会)での)緩和追加を予想する向きは極めて少なく、また前述のように米国の経済指標は堅調さを増してきているので、米緩和期待を米ドル安の主因とするのは難しいだろう。欧米の悪材料をことさらに取り上げて、消去法的に円を買う動きは続いては来たが、前述のリスク追求の動きの背景の2点目(米国経済指標の堅調)と3点目(欧州財政問題への取り組みの進展)を踏まえれば、そうした円の買いも薄らいできているはずだ。


 したがって、米ドル安円高の進行の要因としては、本邦政府(とりわけ財務相)の論理一貫しないスタンスが大きいものと考える。まずこのところ政府が打ち出している「円高総合対策」は、①円相場を円安方向に押し下げる策(最近の「口先だけ介入」や、国際協力銀行の融資を呼び水として、国内企業の対外投資を拡大させる策など)と、②現在のような円高水準(ないし円高のさらなる進展)を前提として、その痛みを和らげる策(中小企業への資金繰り支援や、エコポイント制度再開などの需要刺激策など)とが、ごちゃまぜになっている。①と②の両方の策を合わせて推進することが決して悪いわけではないが、政府側からはその2種類をはっきり区別して説明されていないようだし、はたから見ていると、現在の円水準を容認しないのか容認するのかが、よくわからない。


 財務相の発言も、「必要なら為替介入も辞さない」(裏読みすれば、今はまだ必要でないので介入していない)、「投機的な動きが行き過ぎれば断固たる措置を取る」(まだ投機的な動きが行き過ぎていないので断固たる措置を取っていない)、「さらに一方的な動きを懸念している」(現状よりさらに一方的に進めば懸念するが、現状ではまだ懸念していない)といった、「~であれば」「さらに~となれば」という言辞のオンパレードで、解釈によっては現状の円相場を容認しているようにも聞こえる。


 その一方で、財務相は国会答弁では「今の為替レートでは(輸出企業の)努力がなかなか報われない」「(前回のG20で)1ドル76~77 円台は決して日本にとって適正なレートではない(と他国に説明した)」とも語っており、これらの発言からは、現在の円相場の水準そのものを容認していないと解釈できる。これが本意であれば、「必要なので為替介入を辞さない」「投機的な動きが行き過ぎているので断固たる措置を取る」「既に生じている一方的な動きを懸念している」と述べるべきであるし、何より直ちに円売り介入すべきであろう。


 悪意を持って眺めれば、「口で「断固たる措置」と言っただけでお願いだから円安になってください、介入しなくても大丈夫な事態になってください」と神仏にお祈りしているように見える。実弾介入すると、よほど欧米諸国ににらまれるのであろうか。財務相自身が発言したように、「国益のため必要があれば介入も辞さない」のであれば、日本国の国益のため、堂々と介入すればよいのではないだろうか。


 未だに介入が行なわれていないことについて、財務相は「後から振り返って最適のタイミングで実施したと評価が得られるようなタイミングが、介入については必要だ」と国会で答弁している。確かに、事前に介入のタイミングを明らかにする必要は全くない。しかし介入の後、事後的に、最適のタイミングであった、最適と判断するのはこれこれこういう尺度による、という説明責任が果たせるのであろうか。


 介入しなければいけない、と主張したいわけではない。現在の円相場の水準を所与とし、それを前提に様々な経済政策を打ち立てることも、政策の方向性が明確で論理一貫していれば、「あり」だと考える。しかし現政権のように、何をどうしたいのか(あるいは、どうもしたくないのか)が混迷している状況では、企業も個人も、円相場の動向に対してどう対応すればよいのか、ほとほと思案に暮れてしまうのではないだろうか。(本メモは、日本時間10 月27 日(木)午後8時半頃執筆したものです。)