欧米株価や外貨は二番底、日本株は一番底の形成へ

 最近になって、世界市場は、10 月初旬の状況に似た波乱に見舞われている。月次見通し資料「花の一里塚」11 月号(11/1 付)の予想レンジと比べると、日経平均(レンジ下限8500 円)、ユーロ(対円、レンジ下限104 円)、豪ドル(対円、レンジ下限76 円)が、予想レンジ下限をやや割り込む展開となっている。


 市場波乱の要因としては、引き続き欧州財政懸念が中心となり、それに米国の景気懸念(欧州金融情勢の混乱が米国に金融不況をもたらすとの意見もある)などが加わった形だが、後に述べるように、欧米の経済・財政等の実態が悪化しているというより、不安が暴走・膨張している感が強い。日本株は今年の最安値を割り込んでいるが、いずれ底入れし一番底(最も安い価格での底)を形成すると考えるし、米国株、ドイツ株、米ドル・ユーロ・豪ドルの対円相場など、一番底を割り込んでいないものについては、二番底(一番底より高い価格水準での底)を形成すると見込んでいる(次ページの図1参照)。


1.米国の実情は?


(1)堅調なマクロ経済指標


 11/22(火)発表の7~9月の実質GDPの下方修正(前期比年率の成長率が、2.5%→2.0%)は悪材料として取り上げられたが、在庫投資の下方修正が大きく、一概に景気の弱さを示しているとも言い難い。またこのところ発表された経済統計には、下記のように市場予想を上回ったものが多い(各項目の最後のカッコ内は、発表日、市場予想→実際の値)。


小売売上高(10 月、前月比)(11/15、+0.3%→+0.5%)
ニューヨーク連銀景況感指数(11 月)(11/15、-2.00→+0.61)
鉱工業生産(10 月、前月比)(11/16、+0.4%→+0.7%)
住宅着工件数(10 月、前月比)(11/17、-7.3%→-0.3%)
住宅建設許可件数(10 月、前月比)(11/17、+2.4%→+10.9%)
中古住宅販売件数(10 月、前月比)(11/22、-2.2%→+1.4%)
耐久財受注(10 月、前月比)(11/23、-1.2%→-0.7%)


 もちろん、予想を下回った指標もあるが、総じて(景気回復が加速しているとは全く言えないが)景気の底固さが示されていると言える。



(米独の株価は、9・10 月の一番底(矢印の起点)よりは現在の相場水準(矢印の終点)の方が高く、おそらく一番底を割り込む前に底入れし、二番底を形成すると考える。日本株も早晩底入れするだろうが、過去の一番底を割り込み、新しい一番底形成を模索中である。)


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(2)米国の金融不安は、余り強まってはいない


 米国経済は悪化していくに違いない、と声高に主張していたエコノミストのなかには、前述したような経済指標の堅調さを受けて、悔し紛れに「足元の米国経済は意外と堅調かもしれないが、欧州が金融恐慌に陥って、その巻き添えで米国でも金融不安が強まる形となり、きっと米国経済は欧州のせいで景気後退に陥るに違いない」と、負け惜しみのようなセリフを吐く向きが増えているようだ。




 確かに銀行間金利であるLIBOR(ロンドン銀行間金利)と米国債利回りの差を見ると(図2)、銀行同士の経営不安から貸し渋りの様相が強まり、LIBORが上昇して、格差は最近拡大している。しかし、ようやく昨年5月以降、最初にギリシャ財政不安が広がった頃の水準に追いついたところであり、かつまたリーマンショック時の格差(グラフに描き入れると、最近の動きがつぶれてしまってわからなくなるので、グラフの左下に数字を書いている)には遠く及ばない。


 一般企業の信用不安を見るために、社債利回りと米国債利回りの差を見ると(図3)、BBB格では最近では10 月初旬に向けて上昇した後、最近はそれより低い水準で推移している(図1の、米国株価の動きを上下にひっくり返したような動きである)。したがって、一般企業の資金繰りや信用不安の状況が、悪化しているとは言い難い。


(3)政治的な不透明感は台頭したが、米財政がすぐに悪化するわけではない


 米議会の超党派委員会による財政赤字削減案(10 年間で1.2 兆ドル以上の赤字削減)策定協議が決裂した。これは米国政治の迷走ぶりを示す結果となり、それ自体は米国株、米国債、米ドルについて悪い材料である。


 しかし協議決裂により、2013 年より、歳出が自動的・強制的に1.2 兆ドル削減されていくこととなる(もちろん、この自動的な削減自体が法律で定められたものであるので、法律を改廃してしまえばご破算になる可能性はある)。つまりどちらにせよ財政赤字は削られていくので、市場はこの交渉決裂に対する失望的な反応は一日だけにとどまった。


 また、格付け会社も当面は今の米国債の格付けを維持する旨を発表したため、市場にも一旦安堵感が広がっている(ただし格付け見通しは「ネガティブ」であり、いつかはさらなる格下げが行なわれる可能性が高い)。


 以上から、2012 年の大統領選挙もあり、米国政治の先行きには不透明感がつきまとう展開になろうが、それが急速に大きく米国の市場や経済に打撃を与えるとは考えにくい。


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2.欧州の実情は?


 欧州諸国の財政赤字問題に関する取り組みは、こけつまろびつではあるものの、徐々に前向きには進んでいる。


 ギリシャ、イタリアでは非政治家が首相となって「挙国一致内閣」が発足し、財政問題への取り組みを最優先としている。イタリアの内閣に政治家が一人も入らなかったことから、現政権の指導力不足を懸念する声も多いが、ベルルスコーニ前首相の「置き土産」で財政赤字削減法案が成立しており(前首相が、同法案の可決を辞任の条件としたため)、財政赤字削減の取り組みが後退しているわけではない。


 スペインでは11/20 に総選挙が行なわれ、国民に対して、財政赤字削減とそのための負担増を呼び掛けた政党(国民党)が政権を奪取した。欧州財政騒ぎのなかで、欧州諸国の国民が、財政赤字削減の重要性を認識しつつあることの表れであると言えるだろう。


 IMF(国際通貨基金)が新融資制度(短期の現金を供給するもので、予防的流動性枠(PLL、Precautionary and Liquidity Line)と呼ばれる)の導入を発表したが、規模の点などからまだ力不足の感が強い(「バズーカ砲ではない」と言われている)、あるいは欧州共同債の発行が提案されているが、一部国の反対が根強い、など、一気呵成にことが進む情勢では全くない。


 しかし市場の混乱は、欧州国債市場において極端に進んでしまっている。先週はドイツ国債以外の国債が全て売られる(格付けが高いフランス、オランダ、オーストリアなども含めて)といった、行き過ぎた不安による売りがみられた。ところが今週に入って、11/23 のドイツの国債入札(10 年物)では、募集額の60 億ユーロに対して応札額が38.9億ユーロしかない、という事態となり、ドイツ国債でさえ買いたくない、といった、行き過ぎた不安がさらに行き過ぎた状態になってしまっている。


 すなわち、現在の欧州財政不安は、まさに欧州財政の実態より、不安が勝手に増幅された展開になっている。このため、不安がいつ収まるかは、不安に聞いてくれ、といった状態だ。ただ、いくら不安心理が実態からかい離できるとは言っても、前述のように財政赤字削減への取り組み、金融不安収拾への取り組み(EFSF(欧州金融安定ファシリティー)も、12 月以降、周縁国国債買い入れなどの実働を開始する)が進むことで、行き過ぎた不安が実態へと回帰していく展開が見込めるだろう。


3.日本株の出遅れは?


 前掲の(図1)で示されているように、日本株の出遅れが目立つ。日本株が低迷している要因として、これまで述べてきたような欧米発の不安がしばしば指摘されるが、もしそれだけが日本株を押し下げている要因であれば、不安の「出元」である欧米株価の方が、日本株より大きく下げているはずである。


 日本株が出遅れている一つの要因としては、現在の日本株の売買高で大きなシェアを占める外国人投資家が、本国株価の波乱を受けて、他国株価の処分を進めてきた(結果として日本株が売りを浴びた)ことが挙げられるだろう。このため、外国人投資家が通常保有する大型株(国際優良株)の下落が、とりわけ厳しいと考えられる。


 別の要因としては、為替相場等の外部環境が不透明な状況が続いていることがあるだろう。TOPIXベースの予想EPS(一株当たり利益)のアナリスト平均値をみると(図4)、円高気味の為替相場やタイの水害などを受けて、下方修正気味の推移となっている。



 今後の日本株の推移については、欧米の状況に対するいたずらな不安が徐々に解消されることにより、日本株価の上昇を予想するが、本格的な上昇に至るには、EPSが再度上方修正基調に転じることを確認する必要があるのだろう。