量的緩和で為替主権を主張せよ

(1) 黒字国で日本だけが為替を市場に任せている


世界経済の一体化が進み市場経済が世界を覆いつつある一方で、国家資本主義(典型は中国)、為替操作・誘導等の非市場的要因が増長している。共に効率的な地球規模の資源配分を歪め、資本や労働力などの有効活用を阻害し、経済成長の制約要因となりかねない。フロート制の成立以降、為替レートは市場の合理性によって決まると考えられているが、現実には国家利害が色濃く反映されている。特に最近は、世界の三大貿易黒字増加国-中国、ドイツ、韓国において、全く為替調整が効かない構造となっている。中国人民元は依然としてドルペグに近く、ドイツは大幅な黒字国なのにユーロ安の恩恵を受けている。また韓国は競争力促進のための人為的ウォン安誘導を続けている(図表1、2参照)。2008年のリーマン・ショック以降の困難期の米国も大幅な金融緩和によりドル安を実現し経済と企業業績を支えた。加えて直近、中国は景気テコ入れのための元安誘導を始めた模様である。このように各国は為替を自国に有利なように誘導している。これに対して主要黒字国の中で日本だけが為替を自由市場に任せている。これでは円だけが突出して買われざるを得ないともいえる。



(2) 過度の円高投機が日本経済を歪めている


加えて日本は、世界唯一のデフレ国(=通貨価値が上昇)、また中央銀行が為替水準に中立を装う国であるため、消去法的な通貨投機の対象となり独歩高を続けている。突出した国際競争力の強さから日本が世界の貿易黒字を一手に稼いでいた1980年代後半から2000年ごろまではハンディとしての円高はやむを得なかった。しかし、競争力優位が大きく後退し、2012年上期は原発停止による燃料輸入の急増で歴史的貿易赤字(2.9兆円)が計上されたにもかかわらず、円高趨勢が終わらない。為替変動は時には短期間で10%、20%軽く動き、直ちに国家間の交易条件を大きく変化させるが、その幅は関税率などを大きく上回る。関税交渉、TPP創設などにより有利な交易条件を得ようとする努力は、為替動向次第で水泡に帰する危険も大きいのである。


図表3に見るように、実力(購買力平価)から過度に乖離した円高が経済に大きな痛みと歪みを与えている。①製造業の国際競争での敗退、②デフレの進行と資産価格の下落、③国内資源配分の歪みと不公正の発生(賃下げにより民間勤労者が被害を受け、公務員、社会保険生活者などが有利になる)、等である。



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(3) 決定的に重要な日銀の量的緩和政策


このままでは日本の産業は他国に漁夫の利を奪われる。ここは通貨主権を主張すべき場面である。為替介入は為替操作国の仲間入りとなり非難を浴びる。徹底的な日銀の金融緩和、バランスシートの膨張によるベースマネーの増大が望まれる。世界の中央銀行は金利操作から量的金融緩和へと政策の軸を移してきた。日銀がそのトレンドの先頭を走るべきである。巨額のETF、REITの買い入れによりベースマネーを増加させればよい。量的緩和によるリフレ政策は需要不足に悩む世界各国にとっても歓迎すべき政策である。円高デフレ終焉とともに資産価格の上昇が内需に大きな購買力を与える。日本経済の風景は激変するだろう。




(付論1) 円安は賃金上昇と内需拡大をもたらす


為替変動は各国固有のコストである労働賃金と不動産価格に直ちに反映される。たとえば世界経済において、同一労働(生産性)同一賃金が貫徹されるので、2倍の円高により日本人の賃金が国際水準から2倍になれば、日本国内では1/2への賃金引き下げ圧力が発生し、国際的な一物一価の賃金水準への回帰圧力が働く。円高は自動的に賃下げ、デフレ圧力を生み、円安は自動的にインフレ圧力、賃上げ圧力をもたらす。



(付論2) 円高デフレは国内の所得配分を歪めた


1980年代以降日本の圧倒的競争力、一手に集中する貿易黒字という近隣破壊的競争力の下で、ペナルティーとしての円高はやむを得なかったとの評価は正しいか。必ずしも正しくはない。


日本の競争力をそぐ道はインフレという道もあった。金融バブルを崩壊させるのでなく、それに合わせて賃金を上昇させ円高を回避するという道もあり得た。


1990年代初頭日本の高生産性→ 高競争力→ 貿易黒字増大(所得増大) に対して2つの選択肢があった。
→ ① 賃金上昇による労働者への還元 → 競争力低下
→ ② 円高による輸入業者への所得移転、対外購買力の向上 → 競争力低下


① は賃金インフレを、② はデフレをもたらし、それは国内の部門間の所得配分に影響する。よって利害対立があったはず。しかし当時、日本で部門間の利害主張と政策選択の検証がなされた形跡はなし。結局② が選択され、円高デフレは勤労者の所得抑制=内需制約をもたらす一方、公務員、社会保険生活者などが有利化、また日本企業のグローバル化を促進、また日本企業の高付加価値化、差別化を促進した。