政府が日銀に20兆円規模の追加緩和を要求?

日銀法の精神に反する
昨日からの円安の流れで、ドル円相場は7月6日以来約3ヶ月半ぶりに一時80円台の大台を回復しました。

昨日の午前に発表された日本の上半期貿易収支が史上最高の赤字額になったことと、格付け大手S&Pが発表した日本国債の格付けに関するリポートで「財政健全化が進まなければ格下げに踏み切る可能性がある」としたことなどから円売りが強まっている中日銀の追加緩和に関する報道が相次ぎました。

ロイター通信
「最も可能性の高い選択肢として浮上しているのは、資産買入基金の枠を現在の80兆円から10兆円積み増す案」「資産買い入れと他の政策を組み合わせる案も出ている。買入期限の2013年末以降も物価上昇率1%が展望できるまで基金の残高を維持すると表明する案」「事実上、米連邦準備理事会(FRB)方式の無期限(オープンエンド)の買い入れ表明とも受け止められる」

産経新聞
「景気浮揚を狙い、金融緩和圧力を強めている政府が日銀に対し、国債などの資産買い入れ基金を20兆円増額する追加金融緩和策を求めている」「政府は日銀も歩調を合わせ、強力な景気下支え策を取るよう要求」

特に産経新聞の報道で、政府が日銀に対して具体的な要求をしていることから、30日の次回金融政策決定会合で大規模かつ長期の緩和策が発表される、とも期待感から円売りが強まりました。

日銀は、政府、財務省の管轄にあるようなイメージがありますが、実際には「日銀法」という法律の下、独立した運営が保護されています。日銀法は平成10年に改正されましたが、この時の改正の主な目的は「日銀の独立性を高める」ことにありました。

第3条「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」

ただし、金融政策(日銀)と経済・財政政策(財務省)は表裏一体となるものですから政府の方針との整合性を保つことも義務付けられています。

第4条「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」

しかし日銀の業務の目的はあくまでも

第2条「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」

とされていて、景気浮揚はその責務ではありません。

今ご紹介したような日銀法の理念を踏まえて改めて昨晩のニュースを見ると、特に産経新聞の報道に強い違和感を感じます。政府が、日銀に対しその責務ではない「景気浮揚を狙い」「強力な景気下支え策を取るよう要求」しているというのですから、果たして白川総裁がそれに応じるのでしょうか。

政府は日銀法を再び改正して、政府による総裁などの解任権を設けたり、景気対策を日銀責務とすることなどを検討しています。それを避けたい日銀は、ある程度は政府の要望を受け入れる可能性が高いと考えられますが、日銀法の精神からは明らかに逸脱した行為と言えます。

日銀のHPには

「過去の各国の歴史を見ても、中央銀行の金融政策にはインフレ的な経済運営を求める圧力がかかりやすいことが示されています。物価の安定が確保されなければ、経済全体が機能不全に陥ることにも繋がりかねません。こうした事態を避けるためには、金融政策運営を、政府から独立した中央銀行という組織の中立的・専門的な判断に任せることが適当であるとの考えが、グローバルにみても支配的になってきています。」

とあります。

歴史は繰り返す、と言いますが皮肉なものです。