一休 森正文代表取締役社長インタビュー

アベノミクスでさらに輝く“一休”ブランド


一休
代表取締役社長
森正文(もり・まさぶみ)


1962年、東京都生まれ。上智大学卒業後、86年、日本生命保険入社。資産配分立案企画部門、融資審査部門などを経て、98年に同社を退社、プライムリンク(現・一休)を設立。2000年に「一休.com」を開設、05年に東証マザース、07年には東証1部上場を果たす。
 

高級ホテル・旅館予約サイト「一休.com」を運営する一休。今でこそ、顧客満足度の高さや無借金の健全経営などで知られる同社だが、創業当時は苦労の連続だったという。同社のこれまでと今後の事業ビジョンを、森正文社長にうかがった。

──まず、御社の業態についてお話し下さい

 高級ホテルやレストランのインターネット予約サイトを展開しています。主力の「一休.com」は高級ホテル、旅館に特化した宿泊予約サイトです。主なクライアントは、ニューオータニ、オークラ、帝国ホテルの国内御三家やパークハイアット東京、フォーシーズンズといった外資系ホテルで、多くの宿泊予約サイトが一泊7000円~8000円の部屋を中心に紹介しているのに対し、「一休.com」では平均で、一泊約2万3000円の部屋を取り扱っています。
 なぜなら、「一休.com」は高級ホテル、旅館のみが集まっているサイトである、というブランドがインターネット・ユーザーの間で確立しているからです。ここまでブランドを構築できたのは、これまでに当社のスタッフとともに、私自身が足を使って各地のホテルや旅館に懸命に営業してきたことが大きかったと思っています。これまで何度も、朝イチの飛行機で北海道へ飛び、日帰りで帰ってくるといった営業をしてきましたから。
 足を運び、情熱を持ってホテルに営業してきたことが、現在の「一休.com」に結び付いているのです。これは全ての営業の世界で言えることですが、営業の成果は靴の底の磨り減る量に比例するということです。実は「一休」というのは母が飼っていた犬の名前なんです。“一級”のホテルに“一休み”。インターネットのサイト名にはぴったりでしょう。

──そもそも、なぜこの会社を設立されたのですか?

 もともと大学を出て、日本生命という会社に勤務していました。
 しかしC型肝炎を4年くらい患ったときに「このまま大企業の社員でも構わないのだが、人生は限りがあるし、治ったら会社を作りたい」と思ったんです。そこで完治した後に「とりあえず会社をつくりたい」と先輩の女性と一緒に会社をつくりました。
 しかし「会社を作りたかった」ので、創業当初は具体的な仕事がなく、先輩の女性もやる仕事がなかった。その頃、彼女からは「売上げがゼロの会社で、向かいの銀行に行くくらいの仕事なら、9時に出社することはない。2時50分にくれば間に合う」と言われました。非常に合理的な方です(笑)。2ヵ月くらいして、彼女が新聞の求人欄を見ているので「転職するの?」と聞いたら「浅草あたりのデパートで清掃の仕事で働いて、私がこの会社の売上げを作る」と言われました。
 そんな彼女を見て、私も頭の中で考えているだけではなく、ともかく何でもやってみようと考えるようになりました。そして、偶然思いついたのが、インターネットのオークションサイトで、出品してもらうためにあちこち動いているうちに、出会ったのがホテルだったのです。
 その頃、新宿などの高級ホテル街を見ていると、電気がまばらにしか点いていないビルと、電気が煌々(こうこう)とついているビルがあることに気がつきました。電気が点いているビルはサラリーマンが残業で働いているビル。電気の点いていないビルは高級ホテルでした。そこで気がついたのは「あの電気の点いていないビルは究極の在庫だ。あの暗い部屋を明るい灯りで埋められないだろうか」ということでした。
 そこから部屋をオークションに出してもらう事業をスタートしたのです。最初に部屋を提供してくれたのはセンチュリーハイアット東京(現・ハイアットリージェンシー東京)でしたね。

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──御社のサイトを見ると私たちにとっては憧れのホテルばかりが集まっていますね

 いいものを扱えば、クレームが出ない、金額が高い、利益率も高い、といいことばかり。そう思って、まず初めに高級ホテルの営業から始めました。あれもこれも扱うというビジネスホテルとは違って1泊数万円もするホテルです。
 そもそもセブン・イレブンでエルメスを買いませんよね。現在では「一休は高級ホテル」というブランドが浸透していて、「一休を使えば外さない」という顧客心理は大きなものがあります。昨年5月に沖縄でリッツ・カールトンがオープンした時、GWゴールデンウィーク明けに一斉に予約受付をスタートしましたのですが、初日の予約は他社が数室程度だったのに対して当社は700室を超えました。平均で1泊5万円台ですから、顧客心理としては「失敗したくない」というのが大きかったのでしょうね。

──最後に今後の事業展開についてお話し下さい

 会員数は現在300万人程度ですが、これは自然に増えていくでしょうね。今は四半期ごとに10万人ぐらいのペースで増えています。年齢層や男女の別に関係なく当社の利用者は増えていくでしょう。高級とはいえ、当社の顧客はシニア層だけではありません。私はバランスが良いと思っています。宿泊以外では、高級レストランの予約は現在、当社の独壇場ですが、これも伸ばしていく方向です。そして、いずれは海外のフォーシーズンズやリッツ・カールトンなど高級ホテルへの送客も目指していきます。
 当社の社員は大半が30代前半なので、まだまだ新しいステージに挑戦していけると思います。創業の時は時間もありましたが、今は時間が足りないくらい忙しいです。
 東証1部に上場した2007年の経常利益は14億円程度。その後システム投資や広告宣伝費の増加に加え、東日本大震災などもあり、長期間低迷していました。それが今期は約15~16億円と最高益更新の見通し。5年間も沈んできたので、会社としてのトレンドはむしろこの先、当分力強い動きができるのではないかと考えています。勢いだけで上場したベンチャー企業から、現在までにいろいろなことを経験してきました。そして、見えない土の下で根を張って、水分や養分を吸い上げる力を蓄えてきました。もう一度成長モードに戻った現在の当社は強いと思います。ある意味で第二の創業時期を迎えているのかもしれません。
 インターネットに新しい風を。世の中に大きなインパクトを。そして、人々の心にうるおいを。株式会社一休は、現状に満足することなく、今後も常に社会に役立つ新しい価値を創造し続けていきます。

【取材メモ】

 先日の日経では「一休、特別賞与50万円」の記事。「一休は3月末に一律50万円の臨時ボーナスを支給する。社員の平均年収は550万円でボーナス支給により1割近く年収を底上げする計画。営業マンなどの志気を高め事業拡大につなげる」。
 因みに同社の森社長の取材時のコメントは「消費が拡大し、インフレトレンドになればホテル代も上昇。つまり当社の売上げは当然拡大します。その意味では当社はアベノミクス関連株と言えるかもしれません」。
 間違いなくその通りだと思う。過去最高益更新トレンドが続きそうな予感。変身した「一休」という印象の強い取材だった。
 ブランドは一日では構築できないし、構築したブランドは多少のことでは崩れない。5年という時間の経過は落選議員が当選したようなもの。ここを経て、強固になった同社の拡大に期待したいところだ。

(櫻井英明)

[ 会社概要 ]
社名:一休
市場:東証1部
コード:2450
設立年月日:1998年7月30日
上場年月日:2005年8月3日
決算月:3月
☆連結業績見込み(2013年3月期)
売上高●47.58億円
営業利益●15.32億円
経常利益●16.1億円
当期純利益●9.84億円
☆トピックス
主力の「一休.com」以外にも、高級レストラン予約サイト「一休.comレストラン」や「贈る一休」「一休.comギフト」が好調に推移。また、全日空と提携し、2012年12月3日より「ANA一休パック」の販売を開始している。