次期日銀総裁でマーケットはどう動くか?

    
昨年11月半ば以降の円安・株高、いわゆるアベノミクス相場が続いている(グラフ参照)が、次の焦点は新たな日銀総裁・副総裁の人事である。既にメディアでは複数の候補者の名前が挙げられているが、例えば、2月7日に時事通信社は、誰が最も日銀総裁に望ましいかについて、市場関係者へのアンケート(24名、なお筆者も回答した)を伝えている(誰が日銀総裁になる可能性が高いかという問いではない)。

このアンケートで挙げられた7名の候補者は以下のとおりである。①武藤敏郎大和総研理事長、②岩田一政日本経済研究センター理事長、③黒田東彦アジア開発銀行総裁、④伊藤隆敏東大大学院教授、⑤岩田規久男学習院大学教授、⑥竹中平蔵慶大教授、⑦浜田宏一内閣官房参与 (なお、その他の方も回答者が挙げられる方式だった)。

このアンケートは、以下のような結果になった。1位(10名)武藤氏、2位(5名)岩田(一)氏、3位(2名)黒田氏、4位(1人)伊藤氏、岩田(規)氏、小泉進次郎氏、高橋洋一氏、竹中氏、中尾武彦氏。

これから判断すると、「武藤氏vs岩田(一)氏vsそれ以外の候補者」、がどうなるかが、とりあえずの市場の関心事ということになる。ただ、先週末(2月10日)の産経新聞で、「日銀総裁 黒田氏が有力」との報道があり、海外の投資家の間でも黒田総裁の可能性がかなり意識されている。ただ一方、今週みんなの党の渡辺代表が黒田氏の総裁就任に反対する意向を示すなど、状況は依然流動的である。

最終的に誰が日銀総裁に就任するかは、安倍首相の決断次第だから、正直、筆者の予想にも限界がある。ただ、3月19日に現執行部の辞職が予定され、もう1ヶ月余りしか時間がないため、水面下では人事の調整は相当進んでいると想像できる。

なお、こうしたメディアのアンケート調査には、一定のバイアスが生じている点に注意する必要がある。というのも、これは、日本銀行を主に取材しているメディアの部署が行っており、アンケートの回答者は、「伝統的な日本銀行の意向に比較的従順な市場関係者」が多い傾向があるからだ。こうした調査では、「最も安定感がある(?)」とされる武藤氏が1位になり易い。

むしろ、これまでの報道から判断すると、武藤総裁誕生の可能性は低いと、筆者は予想している。というのも、安倍首相は、2006年の日本銀行による金融引き締め判断を「致命的な失敗」だったと批判的に考えている。そして、武藤氏は副総裁であった2006年当時には、福井総裁の提案である金融引き締め政策に対して、反対の意を示さなかった。

仮に武藤氏が新総裁となれば、これまでの日銀総裁と変わらないではないかと、株式市場は大きな失望を抱くだろう。可能性は高くないがこのリスクも頭に入れて、当面は投資に臨むべきだろう。なお岩田(一)氏も武藤氏と同じ時期に副総裁だったが、2007年の利上げ時には反対票を投じるなど、ハト派的つまり比較的脱デフレに積極的な考えを持っている。

なお、筆者が冒頭のアンケートにどのように答えたかについては、以下に雑誌「経済界2月号」に掲載された筆者のインタビュー記事を抜粋したので、ご参照いただきたい。

また拙著「日本人はなぜ貧乏になったか?」においても、筆者が考える日本銀行が採用すべき金融政策について論じています。おかげ様で、発売1週間で3万部を超える増刷となりました、ありがとうございました。今週末に、全国書店において在庫不足が解消に向かう見通しです。どうぞ宜しくお願いいたします。

「経済界2月19日号」掲載インタビュー記事(抜粋)

アベノミクスへの評価
金融緩和強化を主軸に置いている点で非常に評価できる。何より重要なのはデフレからの脱却。「日本銀行がいくら市中に資金供給しても、資金需要がない」という批判は誤りだ。デフレ経済では、企業の業績が伸びにくい。名目金利から物価上昇率を割引いた実質金利の高止まりが、企業の投資意欲を削いでいる。欧米の中央銀行並みには大胆な金融緩和を推し進め、企業の資金需要を喚起すべきだ。

日銀法改正
当然、日本銀行は2%のインフレ物価目標を実現するために、政府と連携を強化する必要がある。米・連邦準備制度理事会(FRB)などの中央銀のように、物価目標や雇用の最大化に責任を果たすべきだ。その観点から、日本銀行法の改正は政府の責務。一方、政府に日銀総裁の解任権を付与することについては、あまり必要だとは思わない。解任権がなくても、政府と歩調を合わせて物価目標を達成できる有能な人材を選んでもらいたい。

日銀総裁候補
日銀総裁の有力候補として挙げたいのは、学習院大学の岩田規久男教授と元日銀審議委員の中原伸之氏だ。両氏とも金融政策に造詣が深く、金融緩和に対してやや及び腰なこれまでの日銀総裁とは考え方が大きく異なる。アベノミクスの実現をサポートするのに、最も適しているのではないか。

財政政策
公共投資を節度なく拡大するのは、害悪が大きいと考えている。自民党が国会に提出した「国土強靱化基本法案」では、10年間で200兆円の公共投資を行うとしているが、極端な数字のように思える。震災からの復興や防災強化といった美名のもとに、バラマキが進んでしまわないか。これでは、“古い自民党”が復活したと言われても仕方ない。ただ、山梨県・中央自動車道のトンネル事故のような惨事を起こさないためにも、老朽化したインフラのメンテナンスには力を注いで欲しい。

産業政策
「経済再生」の名のもとに政府が産業の発展や保護を図るべきではない。中小企業の事業再生や海外進出支援は官民ファンドではなく、民間の金融機関が行うべきだ。官僚の権益が増えるだけで、政策効果は見込めないだろう。デフレが解消されれば、自ずと民間銀行が企業に融資しやすい環境が整う。ムダな政策を止めて金融緩和に特化することが、本当の意味での産業政策だと考えている。官僚の暴走をコントロールできるのは政治家だけ。「ここで権益を主張しないと後がない」と考えている抵抗勢力と徹底的に戦うことだ。

規制緩和
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)にはできるだけ早く交渉参加を表明して、ルール作りに携わるべきだ。貿易自由化で国民の生活は豊かになる。消費者がいろいろな洋服を購入して楽しめるのも、自由に貿易ができるからだ。消費者はTPPによって、安くて品質の高い商品やサービスを一層享受できるようになる。既得権益を守りたいだけの抵抗勢力のせいで、国民全体が損失を被るのは避けたい。ただ物事には順番があるので、まずは金融緩和で景気を回復させて、今夏行われる参院選を乗り切ってから、交渉参加への道筋をつけるといい。

ほかにも、健康保険の対象になる診療と自由診療を併用できる「混合診療」を解禁し、女性の労働力を活用するために「幼保一体化」を推進すべきだろう。「産業競争力会議」や「規制改革会議」では、企業経営者らによる実のある議論を期待している。政府には民間の意見を積極的に吸い上げ、政策に落とし込んで欲しい。規制緩和策は急に効果は出ないので、腰を据えてじっくり取り組むべきだ。